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「うう、寒っ」
ぶるっと身を震わせ近くの公園へと小走りに向かう。公園はすぐ近くだしこの辺りは街灯も多く治安もいい。だが辿り着いた夜の公園は何だか不気味だった。昔ここで首を吊った人の幽霊が出る、そんな噂を聞いた気もする。暗闇を覗くと見てはいけないものを見てしまいそうで、私はいつも待ち合わせしているベンチを目指して全速力で走った。
「はぁ、はぁ、お待たせっ!」
息を切らす私を見て亮太は笑う。
「そんな急がなくても」
「だぁってぇ、夜の公園って何か怖いじゃん」
「そっかぁ? それより受験勉強中呼び出して悪かったな」
「ううん、ちょうど休憩しようと思ってたところだったし。っていうかあんたも受験生でしょ?」
亮太はそれは言うなよ、と笑う。
「ま、座れよ」
「うん」
急いで出てきたので手袋を忘れてしまった。氷のように冷たい両手に息をかけすり合わせていると、亮太は何も言わず私の手をその大きな手で包み込んだ。
「あったかい」
微笑んで亮太を見るとその顔が思ったより近くにあって驚いた。心臓が早鐘を打ち体温が急に上がったような気がする。亮太はほんの少し躊躇った後、私の頬にそっと口付けた。
「……ごめん」
急いで体を離し俯く亮太。たまらなく愛おしく感じ、その頬にそっと手をかけ私から唇を重ねた。亮太は一瞬びっくりしたように体を固くしたがすぐに私の腰に両手を回し、深く深く口づけた。どのぐらいそうしていただろう。ようやく体を離した時には真冬とは思えないほどに体が熱かった。
「なぁ、美咲」
深夜独特の静けさの中、亮太の声が妙に大きく響く。
「ん?」
だがそれきり亮太は口を閉じた。何となく気まずくて二人して地面を見つめたままでいると、チラチラと白いものが降ってくる。初雪だ。思わず空を見上げるといきなり亮太が立ち上がった。
「美咲、結婚しよ!」
突然のプロポーズに驚く私に亮太は「ってそれはまだ早いか」と照れ笑いしながら言う。
「でもさ、俺そういう気持ちだから。覚えておいてほしい」
私はゆっくりと立ち上がり、いつの間にか私より随分背の高くなった亮太の胸に顔を埋めて頷く。
「ありがとう、亮太」
その夜以来、私たちは前よりも頻繁に連絡を取り合うようになり、相変わらず母にはナイショだったけれど交際は順調に進んだ。お互い社会人になるまでは、と体の関係を持つことはなかったがたまに唇を重ねるだけで私たちにとっては十分だった。思えばこの時が私たち二人にとって一番幸せな時間だったように思う。
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