2.心変わり

1/1
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

2.心変わり

 晴れて大学生となった私は実家を離れひとり暮らしを始めた。合格した大学は新幹線で二時間程の距離にあり到底自宅から通える距離ではなかったのだ。これ以上母に負担をかけるのも嫌で奨学金をもらい、アルバイトをしながら大学に通う毎日。時はあっという間に過ぎていく。高校に進学した亮太も部活や勉強に忙しく、連絡を取り合う回数は徐々に減っていった。結局ひとり暮らしを始めてから亮太と会ったのは数えるほどだ。交通費がかかるのでほとんど帰省もしていない。それでも互いの気持ちは変わることなく亮太は「俺が社会人になったら迎えに行くから」と約束してくれていた。  ところが私が大学三年になった夏、突然亮太と連絡が取れなくなった。電話も通じなければメッセージが既読になることもない。最初は受験勉強で忙しいのかな、と思い我慢していたがさすがに半月も連絡が取れないとなると今度は別の意味で心配になる。親戚なのだから病気や事故ということになれば実家から連絡が入るだろうと思いつつも母に電話をかけた。 「あ、母さん? 私、美咲」 「あらあら、自分から電話してくるなんて珍しいじゃない。どうしたの?」  電話口に出た母は妙に上機嫌だ。何かいいことでもあったのだろうか。 「ん、最近そっち帰ってないからさ。元気にしてるかなと思って」  母は「元気よ」と言いながら近況を報告してくる。しばらく話を聞いてからさりげなく「そういえば伯父さん家は? みんな元気にしてるの?」と尋ねると一瞬母が黙った。何かあったのかと心配するがすぐにまた機嫌のよさそうな声で言う。 「ええ、みんな元気よ。そういえば亮太君ね」  亮太の名前が出てドキっとする。だが続く母の言葉は私が期待したものとはまるで違っていた。 「あの子、彼女ができたみたいなのよ。もう高三だもんねぇ。よく一緒に歩いてるわよ。それがまた可愛らしいお嬢さんでねぇ。……って聞いてる?」  その後母とどんな話をしたのか全く覚えていない。亮太に彼女ができた? 私は通話を終えスマホを手に呆然と立ち尽くした。だから私との連絡を絶ったってこと? でもそれならどうしてちゃんと話してくれなかったのだろう。結婚の約束までしておいて今更言いにくかったのだろうか。それにしても……。伯父さんの家に電話して亮太につないでもらおうかとも思ったが怖くてできなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!