15人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
3.述懐
亮太の事を引きずったまま、私はひとり暮らししていた土地でそのまま就職した。もし顔を合わせたら気まずいと思い実家にも一切立ち寄っていない。本当なら彼の家に押しかけてでも真相を知るべきだったのかもしれない。でも意気地なしの私は逃げる方を選んでしまった。意外なことに全く帰省しない私に母は何も言わず、会う時はこちらの街で待ち合わせをした。母も私が実家に寄りつかない理由を何となく察していたのだろう。恋人のいた時期あったが結局長続きしなかった。心のどこかで亮太と比べてしまう自分に嫌気がさすがどうしようもない。
私が二十七歳になった年、祖母が亡くなったと連絡があり久しぶりに帰省した。葬儀は自宅ではなく近所の葬儀ホールで行われるという。亮太とどんな顔をして会えばいいのだろうかと身構えていたがそこに彼の姿はなかった。祖母の死を悼みながらもついつい目で彼の姿を捜してしまう。孫である彼が不在なのはどうにも腑に落ちない。
「ねぇ母さん、亮太いないね」
声を潜めて母にそう尋ねると「あの子、出てったみたいよ」と言う。就職して家を出たということか。それでも普通祖母の葬儀ともなれば帰ってくるのが普通だ。その時伯父さんから声をかけられた。
「おお、美咲ちゃん。久しぶりだね」
何年振りかに会う伯父は随分老けて見えた。私がお悔やみの言葉を述べつつ「亮太……君、いないんですね」と首を傾げると伯父は気まずそうに妻と顔を見合わせて苦笑する。
「ああ、どうも仕事が忙しいらしくてね」
何となくそれ以上聞けなくて私と母は葬儀会場を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!