追いかける理由

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「うーん、今回もそこからか。何が悲しいか忘れてしまったのなら、もう泣くなって前も言ったのになぁ」  残念そうな表情で銀色の頭をかく青年。頭の上には、髪の毛と同じ色をした耳がある。ふわっとしていて触り心地が良さそうだ。よく見ると、同じ色の尻尾も見える。 「ほら、もう泣き止めよ」  とても自然に、いつもやっているような素振りで僕の頭を撫でる。  僕はこの感触を知っている。とても暖かくて、優しい気持ちが彼の手から流れてくる。 「泣いてなんていないけれど」 「ほぅ。じゃあ、これは違うんだな」  整った青年の顔が近づいてきた瞬間、僕は驚いて避けることもできず、ただ目を閉じてしまう。すると、頬を何かが伝い、それを追うように湿った柔らかなものが頬を滑る。  舐められた、と気づいたのは、目を開けて舌をぺろりと出している青年を見たときだった。 「なっ! 舐めた!」 「いつものことだろ」  なんてことない様子で、青年はもう一度僕の頭を撫でる。優しい瞳が僕を見ていた。多分、僕はこの雰囲気を知っていて安心している。けれど、霞がかかったように思い出せない。それが少しもどかしい。 「よし、驚いて涙も止まったな。それじゃあ、おさらいをしようか」 「おさらい?」 「お前は誰で、俺が誰か」  キミは誰で僕が誰か、と反復するように呟けば、青年は苦笑する。
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