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「なぁ、あれ歪んできてねぇか」
「そんなわけ、あれ?」
「な、歪んでるだろ」
彼の指差す方へ目を向けると、冬の大三角が歪んで見えた。ベテルギウスとプロキオンはそのままで、シリウスがプロキオンの方に上がってきている。星と星の距離はとんでもない距離があるはずなのに、瞬きをしている間にプロキオンとシリウスの距離はどんどん縮まっていく。
「なんで動いてるの?」
「あれ? お前は知らないっけ? たまーにこいぬ座があまりにも涙ぐんでメソメソしているからって、おおいぬ座が慰めに行くって話」
「聞いたことがないな」
「うん、まぁ俺が作ったし」
勝手に話を作るな、と胸の内でツッコミを入れている間にも星の距離は縮まる。
「それで、実際のところは?」
「見たまんま? おっきな犬が天の川泳いで、小さいわんこに会いに行ってると俺は思う」
さっきの作り話を推すということか。確かに非現実的なことが起きているし、と考えたところではたと気がつく。
「ところで、キミは誰だ」
僕は知らない。
いや、知っている。
どちらだったろう。
知っているような、知らないような。
毎日悲しくて泣いていたら、すべての記憶が曖昧になってしまった。悲しいことは分かるのに、何が悲しかったのか思い出せないまま泣いていた。
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