『私』が教えてくれたこと

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─9─  あの貴重な体験から、一週間が過ぎた。今日はこの仕事に就いて初めて有給休暇を使った。  私は今、大きく舵を切ろうとしている。今まで、柔軟性、行動力に欠けていた生き方を変え、一つ上のステージへ上がることを決意した。  その一歩が転職だ。全く経験の無い業種へ挑戦してみることに。  今までは、頭で考え行動にブレーキがかかっていたが、今回は、先に行動に移し、それから考えることにしたのだ。  こうして少しづつ変わっていく自身の気持ち、環境が、不思議と心地よい。そう、夏がやってくる前、徐々に気温が上がり、体も気分も軽くなり、街並みもどこか色めき立つこの季節とよく似ている。    人生に遅すぎることなどないと『私』が教えてくれたように、まだ見ぬ世界へ、その言葉を胸に、力強く一歩を踏み出そうと思う。  自分の来し方行く末を思い、漠然と不安を抱えていたあの頃の私はもういない。  前だけを見る、私の時は、一気に加速する。    少し前、私はある人物から、名刺をもらっていた。今からその人物に電話をかける。 「もしもし、おはようございます。先日、名刺を頂いた、札幌ブラシルホテル広川ゆりと申します。突然のお電話、申し訳ございません」 「ああ! 広川さん! おはようございます。どうなさいましたか?」 「はい。実は、先日お話頂いていた件で、一度会ってお話を聞かせて頂けないでしょうか?」 「えっ!、本当ですか? ありがとうございます!」 「よかったらこれからどうでしょうか? 飛行機に乗るまでの時間、少しでもよろしいので……」 「もちろんですよ! ちょうど空港に行く前に、軽く何か食べようと思っていたので、一緒にどうですか?」 「はい、ぜひ! それではとりあえず、ホテルのそばにスタバがありますのでそこで落ち合う感じでよろしいですか? 私もすぐに出ますので」 「はい、それでいいです。いやあ、本当にありがとうございます。それではのちほど」 「はい、それではのちほど……神使原さん。失礼します」  さあ、新しい扉を開けよう……  
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