お買い物

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 まず、おばあちゃまは箒を預ける為の場所に行った。  人間界、いや、マヌールの世界の駐輪場みたいなものだ。  箒をひっくり返し、縦に二か所鍵付きの輪っかがついている。  そこに箒を立てかけて、二か所の鍵をおばあちゃまは自分の杖を出して、自分しか解けない魔法で鍵をかけ、店番の魔法使いに見たことの無いお金を払っていた。    マーガレット魔法学校から届いた1年生が揃えなければいけない教科書や道具の書かれた紙は、お母さんからいつのまにかおばあちゃまのお家に送られていたようで、おばあちゃまは、小さく頷きながら 「ふんふん、なるほど。」  と、お店に向かって歩いて行った。 「箒はいらないね。授業では学校の箒を使うのよ。不公平がない様にね。」 「でも、学校まで乗って行かれるようになったら、お父さんとお母さんがメイサに合った箒を作ってくれるからね。」  学校から届いた用紙には、 *制服(夏用、冬用、マント、) *杖 *魔法薬用鍋(中) *基本魔法書(魔法薬(上、下)・杖の呪文・魔法史) *お供の猫(お持ちでない生徒には学校から支給します)  以上  そのように書いてあった。  おばあちゃまは書いてある上から順にお店屋さんに入って、メイサのサイズに合わせた制服を買い、杖のお店に入ってメイサに合った杖を探し、薬草学のお鍋を買い、書店で本を買いそろえた。  そして、猫のお店。と書いてあるお店に入っていった。  メイサは自分の家で猫のズズを飼っているので、おばあちゃまも知っているはずだ。でも、念のため、おばあちゃまに 「ねぇ、猫ならおうちにいるよ?お家にいるズズを連れて行っちゃだめなの?」 「あぁ、ズズはお母さんのお供の猫だからメイサが連れて言ってもメイサのお供にはなれないのよ。」 「それに、学校から支給される猫だと、気の合わない子もいるかもしれないからね。このお店で、仲良くなれそうな猫を探しましょう。」 「魔法学校にいるときも、卒業してからもお供の猫は特別なの。マヌールの飼っている猫のように私たちより先に死ぬことはないのよ。」 「おばあちゃまはお供の猫はいないの?」 「そうだねぇ、おばあちゃまにはもうお供が必要なほど忙しいことがないからね。」 「おばあちゃまは昔スーズと言う猫をお供にしていたのよ。」 「お供が必要なくなるとお年寄りの猫がいる施設にいくの。そこにしばらくいるとだんだん若返って次の魔女のお供になるときに昔の記憶を持ったまま次の魔女のお供になれるのよ。」 「だから、魔女になりたての頃はお供の猫がいるととても助かるわ。」 「さぁ、お店の中でメイサに合いそうなお供の猫を探しましょう。」  メイサはワクワクしながら猫のお店に入った。  なんと、黒猫の集団がお店の中で待っていた。ケージにさえ入っていない。みんな好き勝手な場所でくつろいでいる。  そういえばお母さんのお供の猫のズズも黒猫だ。  魔女の宅急便は見ていたが、お供の猫は本当に黒猫なんだ~。  こんなに沢山の黒猫、全部黒猫。この中から私のお供を見つけるの?  するとおばあちゃまは、急にお店の猫たちに向かって 「スーズ、スーズはいる?」  急に呼び始めた。さっき聞いたおばあちゃまの猫の名前だ。 「ねぇ、おばあちゃま、スーズはもう若返っているの?おばあちゃまと離れてからどれくらいたつの?」 「そうねぇ、おばあちゃまは今302歳。スーズを手放したのは200歳の時だから、もうそろそろ若くなっていると思ってね。」  スルッと黒猫の群れの中から足が長く、耳が大きくてしっぽが長い。いかにも黒猫ですと言う猫がするりと抜け出してきて、おばあちゃまの足元にすり寄った。目も大きくてとっても美人な猫だ。 「まぁ、やっぱりいたわ。スーズ。よかった。」 「ねぇ、孫のメイサよ。今度魔法学校に入学するの。」 「スーズが一緒にいてくれるととても助かるし安心なんだけど。」  おばあちゃまはまるで黒猫が言葉を理解しているかのように話し始めた。 『へぇ~、お孫さんね。メイサ。うん。魔女らしいいい名前だわ。』 『魔法使いの力を受け継ぐ宿命を背負ったのね。』 『私で良かったら、勿論メイサのお供になるけど、メイサはどう思ってるの?』  メイサは、自分の耳を疑った。  なぜかスーズの鳴き声がまるで話しているかのように聞えたからだ。 「メイサ、スーズの声もちゃんと聞き取れたの?」 「これはもう、魔女決定ね。どうかしら?スーズと仲良くなれそう?」 「スーズさんがいいなら。私はおばあちゃまのお供だった猫さんと一緒にいられるってことだよね。」 「魔法学校の事、ちょっと怖かったけど、スーズさんと一緒なら大丈夫な気がする。」 『ちょっとちょっと、スーズさんはよしてよ。スーズでいいわ。』 『それに随分自信がないのね。』 「あぁ、メイサは本当にこの夏休みに初めて自分で魔法を見ることができたんだよ。」 「だから魔法学校に行くことすらまだ半信半疑って所かしらね。」 『あらあら、じゃ、最初は私が随分面倒を見てあげるようだわね。』 『いいわ。昔を思い出して、メイサが魔法学校で上手くやって行かれるように応援するわ。』  という事で、猫のお店の人とおばあちゃまはお話をして、スーズを肩に乗せ、一応移動の時用にケージも預かった。  猫屋さんではお金は払わなかった。もともと黒猫は魔女のお供だし、おばあちゃまのように自分の猫だった子を探しに来たり、マヌールの子供が魔法使いだった時の為に沢山の性格の黒猫を集めているだけのお店なのだ。  学校で支給される猫もこのお店から連れて行くのだと言う。ただ、学校で支給される時には順番に先生から渡されるだけなので、性格が合わないこともある。  それで、おばあちゃまはスーズをさがしに猫のお店に立ち寄ったのだ。 「さぁ、これで全部そろったね。うちに帰るわよ。」  とてもたくさんの荷物。これを全部持って帰るの?とメイサが不安に思っていると、 「大丈夫。買ったものは家に送っておくからね。」 「スーズは少し一緒に暮らした方がいいし、杖と本は予習に必要でしょう?」 「入学してしまうと学校の外で杖の使用は禁止だけど、入学前までは杖の練習も少しはできるのよ。」 「どうせ入学前の子供には大きな魔法は使えないからね。」  おばあちゃまは、箒を預けた場所まで戻るとスーズをケージに入れて自分が抱え、メイサを後ろに乗せて、来たときよりもちょっとスピードを出しておばあちゃまのお家まで帰って行った。    
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