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「このおれを創ったあのお方が、天国に、それとも
惨い地獄におれを入れるつもりなのか、知らない。
草の上の盃、花の乙女、竪琴があれば、
それがおれの幸せの現物、天国という手形は君にやろう。」
(p120)
嵐のような言葉だが、声は。
麗らかな春の 日射しのそれ。
堂はすでに 青の天球の中。
天蓋は 青の穹窿、
またたく星が 乙女たちを照らす。
朗々と歌うは、黄の乙女。
軽やかに舞うは、白の乙女。
琴を奏でる、薄桃の乙女に。
酒甕を傾ける、紅の乙女。
「美酒なしには生きていられぬこの身、
酒なしには この身の重みに耐えられぬ。
酌人が もう一杯とすすめる あの瞬間の、
おれは奴隷だ、ああ悩ましい。」
(p113)
差し出された 盃と、
どうぞ、と囁く紅の乙女。
声は 変声期前の少年。
雲水は微笑んで 盃をうけた。
ひとくち飲めば あたりは、
またたくうちに 緑の草原へと――。
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