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いつの間にか 雲水は、
小舟にゆられ 大河をいっていた。
海原のごとき 大河の水。
中天には 十六夜月。
舟はすすむ。大河のさなか。
ゆるやかに 進む小舟。
一番手前 舳先には、
紫の着物 金の長髪、
美々しく華麗な 貴公子が立つ。
舟はすすむ。大河のさなか。
洞簫。その縦笛の、
月夜にひびく その音は、
風にゆれる 公子の背から、
聞こえてくる 流れてくる。
舟はすすむ。大河のさなか。
――其の声嗚嗚然として
怨むが如く慕ふが如く
泣くが如く訴うるが如し
余音嫋嫋として
絶えざること縷の如し
(詩1)
その音は闇に よく響く。
怨むように、慕うように、
泣くように、訴えるように――。
残された音は 細く長く響きつづけ、
糸のように 絶えることがない。
雲水は知る その哀しみを。
そして あえて問う。
何故 そのように哀しいのかと。
すると公子は 振り返る。
舟はすすむ。大河のさなか。
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