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「祗園精舎の鐘の声、
諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、
盛者必衰の理をあらわす。
おごれる人も久しからず、
唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、
偏に風の前の塵に同じ。」
(p17)
歌っている。白衣の貴人。
長髪の金を、無造作に肩へ散らし。
定まらぬ目を、宙へただよわせ。
細指は弦をつま弾く。琵琶の弦を。
「諸行は無常にして
是れ生滅の法なり
生滅、滅し已りて
寂滅なるを楽と為す」⦅p19⦆
ああ、祗園精舎の鐘が鳴る。
生まれ滅びゆくこの世。何一つとして、
変わらぬものはない。ただこの生滅の終わる地、
涅槃の地にのみ、永久の楽あり――。
ああ、沙羅双樹の花の色。
釈尊入滅のおり、一斉に失われたそれは。
盛んなる者も、いつかは必ず衰えるという、
世の理を、あらわしている。
権力者の立場も 永遠ではなく、
春の夢のごとく 儚いものである。
猛威をふるう者も 死は逃れられない。
おしなべて 風前の塵のようなもの――。
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