第七話 朝顔の庵

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【①大火(たいか)】 燃えている、京の(みやこ)が。 燃えている、灰色の空が。 燃えている、叫んでいる。 全てが、地獄の業火(ごうか)のさなか。 雲水はそれでも、一歩踏み出す。 すでに背後の 堂はない。 雲水は独り 立ち(すく)んだ。 逃げ(まど)う人びとの さなか。 火は全てを覆い、天へ()ぜ、 物も命も区別なく、差別なく。 呑み込んで噛み砕き、灰塵(かいじん)と散らす。 風、炎を連れ――西へ東へ吹き荒れる。 一人 また一人と、煙に巻かれ、 炎に巻かれて、倒れ伏す。 年寄り、小さな子供とつづき、 叫ぶ女たち、男たち。 雲水は立ち尽くす。独りきりで。 炎に焼かれた 家の(はしら)が、 雲水へ 落ちようとするとき。 ふと見れば、左手に。 沙羅(しゃら)の花。 白の人が与えし 一日花(いちにちか)。 はらりと舞いし 白き花弁(はなびら)。 一つ落ちて、景色が変わる。 
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