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「……此処は? お店……?」
「ん? 靴屋だよ」
丁度良い事に靴屋に着いたらしい。煉瓦造りの小さな納屋を少し改造して、店として開いている様だった。
目が慣れて来た事で少女は気付いたが、靴屋という割には靴らしいもの、作りかけのものも何一つ見当たらない。古本ばかりが溢れ返っていて実際は古書店じゃないかと疑いたくなるが、少年の周りに布と型紙が幾つか見える。これから新しいものを作ろうとしているところなのかもしれない。
「とは言っても既製品はもう無いし、今日はこれで店を閉めるし、また明日には開けるけど予約なら……」
手作業していた少年はやっとその手を止めて、来客である少女の顔を窺おうとする。そのお陰で少女は彼の顔を確りと捉える事が出来た。
細身らしく整った顔立ちと云うよりは、がりがりに痩せた様な顔の輪郭はとても健康的とは言えない。薄暗い空間のせいか少年の目は夜の色に見えた。眠たそうな目つきで、しかし虚ろな目という訳ではなく、暗くて深い宇宙の先で小さく輝いている様に見える。
「……お姉さん、旅人?」
少女は一度頷いて答えた。
少年は彼女の足元へ視線を落として訊ねる。
「砂漠を……どうやって越えて来たの?」
「……歩きで」
彼女の足はあれから更に酷くなっていて、まめでごつごつとした石の様になっていた。
「……お姉さん。飛行機は使わなかったの?」
「……色々あって」
その考えに至らなかった事は無い。
無理して砂漠を渡るより、飛行機はなるべくして使いたかったと少女は旅の道程を振り返る。……途中の旅までは乗れた。
瑠璃の宝石を探しに乗せて貰った飛行機には乗らず、広大な砂漠を少女一人と獣二匹がただ歩きだけで進んで来た事情は、長くなるのでまた別のお話になる。
「そう……。ま、いいや」
少年は適当に相槌を打つと、辺りを見回して何かを探し始める。
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