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探しものが見つからなかったのか彼は立ち上がり、「ちょいと待ってて」とその言葉だけを残して、薄暗い店内の奥へ向かって行った。
* * *
少年が戻って来ると、彼の右手には来客用らしい椅子が、左手には救急箱があった。彼は運んで来た椅子に少女を座らせて、彼女のボロボロの足を手当てし始めた。
「……ありがとう」
「……どう致しまして。この街──“グレイ”に来るのは初めて?」
少女は一度頷いて答える。
街の名前を耳にして、そう云えばと彼女はこれまでの旅の経緯を振り返り、気付いた事が一つあった。
砂漠の地名はアシュ、街の名前はグレイ。
砂漠は元々は“アッシュ”という地名だったが、歴史的観点で人の名前と被るのを避ける為に、パンドラがそう読む様に変えられたらしい。共通点があり、どちらもその名前は“灰”を意味している。砂漠は流石に色までも灰色なんて事は無かったが……
そう考え込んでいると、少年からじっと見つめる視線を彼女は感じ取った。
「……?」
その視線の理由は、少年が直ぐに言葉にした事で分かった。
「武器は持って……なさそうに見えるけど、護衛は付ける事を奨めるよ。この街はほんとに厄介でね」
「……」
きっとパンドラの事を指しているのだろう。少女は旅人なのだから、外部の人間が街に関わろうとすると間違いなくそれは警戒して来る。
──異な事を為そうとするだろう、と。
「さて、と。……あんたの靴だけど、今から作ってやらなくもないさ」
「え?」
「気紛れだよ。勿論、お代はしっかり頂くけどね」
足を手当てして貰った上、店をもう閉める筈だっただろうに今から靴を作ってくれるらしい。故に少女は少年の行動にただ驚いた。彼の求める硬貨の枚数を聞いた彼女は、硬貨の入った小袋を取り出して弄り、必要な枚数分の硬貨を掴むと彼に差し出した。
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