灰色の冷たい街

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「……あの」 「なに?」  少年は手元の硬貨を確認しながら彼女の声に反応した。 「一つ訊いても良い?」 「……答えられる質問なら」  店について聞きたい事も山々だが、答え合わせ(・・・・・)として訊いておかないといけない事があった。 「あの自動人形(オートマタ)は“パンドラ”なの?」  “パンドラ”とは一体どんなものなのか、彼女はノアールに訊いてみたが分からなかった。ただ生活の補助輪の様なもの、支えにしていると、それしか知る事が出来なかった。  人ではないが人に近い姿をしているなら、それで可能な事をやらせているという少女に寄る憶測でしかない。  少年は少女のボロボロの足を窺っては、只管手を動かしてばかりだ。 「……箱を開いたら何が起きるか分からない」 「え?」  彼から返って来た言葉の意味を、少女は直ぐには理解出来なかった。 「自動人形(オートマタ)、……成る程ね。お姉さんも本をよく読む方かな? 同じ捉え方をする人なんて初めて会ったよ」  この街に来て遭遇した無機物の人型の様なそれ(・・)自動人形(オートマタ)と云う呼び方、またそれの正しい名前を“パンドラ”と呼ぶのは彼女がそう考えていただけであり、必ずしもこれが正解とは限らない。  彼は一人で納得しながら続けて答えた。 「ただ……お姉さん。“パンドラ”というのは自動人形の事じゃないよ。──“パンドラの箱”は知ってる?」  その名前を耳にして少女が先に思い浮かべたのは、世界で数ある中でよく知られている神話だ。そしてどうやらパンドラとは自動人形の事ではなかった様だ……。 「箱を開くと不幸が広がったという神話……?」 「そう、それ」  その神話とこの街とは深い関わりがあるのだろうか?  少女がその答えを訊こうとするよりも先に、少年は自動人形についてを語る。 「お姉さんの目にした自動人形というのは恐らく、グリズリーの事かな」 「グリズリー……、グリズリーって熊の事じゃないの?」
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