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自動人形は当然、人ではない。
人では無いが人に近い造りをしているだけであり、とてもだが熊の様に似せて造られてはいない。
「そうだよ」
「じゃあ何でそう呼ぶの?」
少女は益々疑問を感じるだけだった。
そんな彼女に少年は作業の手を一旦休めると立ち上がって、机のある方へ向かいながら答える。
「この国を衛るグリズリーはパンドラが量産していて、右胸とか背中とかに……国旗は見た事はある? この国の国旗は熊のマークがあるんだ」
「熊……?」
彼は机上にあったコルクボードから一枚の写真を手に取って戻って来ると、その写真を少女に見せてあげて答えた。
其処には少年曰くの名前に改めグリズリーの群れが写っており、その中の一体が写した人に近い距離にある。そのお陰で先程気付かなかった事に気付けた。
国旗に熊が描かれている国は他にもある事だが、此処での国旗は獅子の様に勇ましい横顔だけの熊と、その左右で煙の様な模様が描かれている。そして国旗は長方形でその枠内に様々な彩りをしているという形ではなく、勲章の様な軍旗に近い形で描かれている。
何故、熊が描かれているかは──
「パンダみたいに動物愛護の意味として……ではなさそうだね」
「……そんな国に見える?」
「見えない」
人間に優しくなくて、他の動物には優しく出来るイメージが、彼女の頭中で浮かぶ事は無かった。
「グリズリーは……ハイイログマの事だからね」
「ハイイログマ……」
自動人形の見た目から色以外に全く関係無さそうだと少女は感じていた。
振り返ってみれば、街の名前、砂漠の名前、そして自動人形の名前もまた灰を意味している事に少女は気付く。街の周りの何もかもが“灰”で満たされているみたいだ。
何故、“灰”に拘っているのだろう?
「この街の周りにあるものはどうして、どれもが“灰”を意味する名前ばかりなの?」
「……」
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