灰色の冷たい街

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 少年の口から直ぐには答えは返って来なかった。それどころか少女のボロボロの足を一度窺っては只管手を動かしてばかりだ。  少女は彼が一体何をしているかよりも、ただ知りたい事だけが彼女の頭の中でいっぱいになっていた。しかし彼女にとって知りたい事だとしても、街の秘密に関わるものはパンドラが反応して、出逢ったばかりである彼を危険に晒してしまう恐れがある。答え難い質問をしてしまったかもしれないと彼女は後悔する。 「生まれてからずっとこの街に居るけど、ボクは知らないね」  少年が作業で一段落着いた様なところでやっと彼の沈黙が破れるも、どちらの理由にしても彼にとって答えられない質問だった様だ。 「恐らく街の他の人達に訊いても、きっと答えはしないさ。此処はそう、灰色の冷たい街だからね」 「灰色の冷たい街……」  少女が街で出逢った人達の反応はどれも氷の様に冷え切っていた。軽蔑されたり、或いは無視されたり、また或いは舌打ちされたり、それは散々な仕打ちだった。  だけどその中で── 「でも、君は優しい」 「……優しい? ボクが??」  彼女の目の前に居る少年だけは違った。 「相手にしてくれて、靴も作ってくれている」 「……お代を貰ったから」  対価は払ったとしても、営業時間外ながら彼女の靴を作ってくれている。 「椅子も用意してくれて、足の怪我までも手当てしてくれた」 「…… あんたの足を採寸する為だから。あとその足でうろうろされたら、グリズリーの警戒する目がボクにも向いて来る」  どんな理由を付け加えても、彼女に対して優しく接しているのは少年だけだ。 「やっぱり君は優しい」 「……ボクは気紛れだよ」 「素直じゃないのね」 「うるさい、これ以上言えば店の外に放り出してやる」 「フフ……、分かったわ」  少女は少年をこれ以上怒らせまいと、靴を作ってくれる彼の様子を暫く見守っていた。
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