灰色の冷たい街

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灰色の冷たい街

 知らない街に少女は辿り着いた。  色で云うなら灰色、いや灰色そのものと云っても良いかもしれない。しかし他に色があって、どんなに明るい色があるとしても、蒸気が上がる鉄パイプの機構だらけのその街は、灰色そのものだと人に寄っては見える事だ。  旅立った頃は宝石とは程遠いが、未だ綺麗だった彼女の衣服も、砂漠の砂や太陽の暑さ、そしてそれまでの旅の月日に寄って輝きを失っていた。  そのせいか歩く先々で街のまた知らない人々から、「なんて醜い子だろう」と氷柱みたいに冷たく刺さる様な視線が行き交う。旅人とは色々な場所を訪れるので、行く先々で汚れるのは当然。しかしそう知らない人達から、汚れて醜い姿の自分を軽蔑して来る目が痛い事には慣れていても、彼女は辛そうな表情を浮かべる。  彼女が羽織っている水色のマントの隙間から、ひょっこりと小動物が一匹、顔を見せた。更にもう一匹、顔を見せる。猫やら兎やら分からない二匹の小動物は、彼女の事が心配の様だ。 「……大丈夫。もう慣れているから」  少女は少し笑ってみせて、それからは逃れる様に先へ先へと歩み続けた。  この街は、パイプ、鉄鋼、歯車などの無機物ばかりに囲まれている。パイプの出口から時折噴き出される蒸気、決められた線路(レール)に沿って順序に動く防衛機構、その中で街の人達は“パンドラ”と呼ばれているものに衛られている様だ。  街の人達はパンドラから生活の補助輪の様なものとして力の恩恵を受けている。その裏で線路から外れた様な結果を起こそうとすると、パンドラがその人を強引に止めるどころか、存在そのモノを消す様に動くらしい。  具体的には街の一部をパンドラの意に反して、勝手に壊そうとしたり、改築しようとしたり、或いはパンドラそのものに対して機能を停止させようと脅かす行為など他にも条件が重なれば、防衛手段が機能し始める。  だから街の誰もがパンドラに逆らう様な事はしないらしい。
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