灰色の冷たい街

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 自動人形から逃げ回る事に夢中になっていた彼女は、血の跡を辿る事も考えずに只管走り続けた。全力とは言っても、足の怪我というハンディキャップを背負っているので早歩きが正しいだろう。  動いている限りは痛みを感じるが、足を止める事は出来ない。取り敢えず街の出口を見つけなくては……、気持ちと共に急ぐ。  気が付くと未知の路地裏に迷い込んだらしい。  時間はあれからどれくらい経ったのかどうかは分からない。空を見れば大体分かる筈なのだが、連なる大きな建物が殆ど覆っているせいで様子が見れない。そして街の出口は未だ辿り着けていない。  一先ずは目に付いた店に入る事にしようと、少女はその扉を潜った。 「……しゃせー」  扉を開く時のベルが鳴ると先に、男の子の高い声だけが彼女の耳で気怠く出迎えた。声自体は当然大きい訳でもなく、彼女の耳に偶々入って来た様な感じだ。  その声の主を早速探し始めるが、直ぐには見つからない。少女の目は特に悪い訳ではないが、店の空間があまりにも薄暗い為に視界は良くなかった。外に居る時と同じ灰色でも、黒に近い灰色で靄の様に覆われている感じだ。  未だ何処に何があるかがよく分からない。  ぼんやりとした灯りのランプが所々に置かれていて、それだけが頼りになる。  少女が空間の奥へ進む毎に、本棚が幾つか彼女の目に入った。本棚に納められている本はどれも古そうで、目に入った本のタイトルも難しそうな言語ばかりだ。更によく見れば、彼女の足元にも幾冊か散らばっている。  懸命に目を凝らして手探りする様に空間の奥へ進み、やっと先程の声の通りに眠たそうな目付きの少年の姿を見つけた。他には誰も居なさそうだ。  少年は顔立ちから中性的に見えて、少女より少し幼い印象がある。彼は彼女という来客が居ながらもお構いなしで、その場にある椅子に座って何やら手作業を始めていた。
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