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「──とまぁ、話自体はここまでなんだよね」  若い男性は話で一段落着いたところで、珈琲の入ったマグカップを口に近付けた。  彼がふと窓の方へ見やると、粉雪が相変わらず街を真白に包んでいる。其処はいつかのアンティークな喫茶店だ。 「……ノアールさん、その街の位置はどの辺りにあるのでしょうか?」  ノアールと呼ばれた男性の向かいの席には少女が居た。彼女もまた相も変わらない無表情であるが、彼の話に興味を持った様だった。 「アシュ砂漠を越えて西へ、大体三十キロ進んだ先にある」 「アシュ砂漠というと……」 「そう。地平線を一度や二度越えても未だ果てしない広さの、()()砂漠だ」  その砂漠はどの方向を向いても只管、砂の域。  塔なり目印になる様な大きな建物も、小さな建物すら何も見つける事は出来ない。それでも只管西へ進み続けてやっと何かしら建物が見えた時、どうやら其処に彼が先程話していた“街”がある様だ。  ノアールはマグカップをテーブルの机上に一度置くと、向かい側に座っている少女と真剣に向き合い問い掛ける。 「行くのかい? とても長い旅になるかもしれないし、状況によっては二度と帰って来れな──」 「それでも私は行きます」 「一切の迷いが無いね?」  話の途中にも拘らず少女は迷いなく答えて、ノアールは苦笑いを浮かべる。 「あら? 私、前にあなたに言いませんでしたか?」 「ん?」  彼は“前”という単語に引っ掛かりを覚えた。彼女と話した記憶を懸命に辿る。  そう、一度だけ彼女に尋ねた事があった。  何の為に宝石を集めているか、と。 「あぁ、そういえば君は、そういう(・・・・)子だったもんね」  彼女がどういう人間だったかを思い出し、彼は笑った。  少女はどんな危ない目に遭おうと、輝くものが好きだから宝石を探し続ける。求め続ける。
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