3. 陰陽師 

4/4
144人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
 僕が唖然としていると、安部は続けた。 「皆が僕を陰陽師とかあだ名をつけて、霊感があるとか予言ができると言ってるのは知っているけどさ、そんなの信じちゃだめだよ」  安部はにやにや笑うと、学食のカウンターの方へと行ってしまった。  あれ以来、安部は講義室や学食で僕を見つけると、にこにこ笑顔で近寄ってくる。 「お前、安部に気に入られたな」とほかの友達が言うほどだ。  安部は飄々として、何を考えているのかわからない。質問してもなぞなぞのような答えしか返してくれないことが多い。そして、時々、僕の本心を見抜くような鋭い目で僕を見ていることがある。でも、僕の方はといえば、相変わらず、安部の実態が掴めないでいた ──  隣に座った安部は、僕のパソコンの画面を覗き込み、「それ、なに?」と聞く。 「アルバイトの家庭教師のプリント」 「ふーん」  それからしばらく沈黙が続く。僕の横顔をじっと見ているのがわかる。 「森下君さ……」   安部が口を開く。 「最近、変な所に出入りしてない?」 「変なとこ?」  僕は聞き返す。 「うーん、たとえば、心霊スポットとか、事故物件とか」 「え?」  僕は思ってもみない質問に、キーボードを打つ手を止めて安部を見返す。 「いや、行ってないよ」 「そっか。じゃ、気のせいだな。まあ、頑張って」  安部はそう言って立ち上がると、僕の背中を払うように触れ、学食から出ていった。
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!