1. 割のいいバイト

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 玄関のドアが元気よく開いて、誰かが帰ってきた。リビングのドアが開き、「先生、こんばんは」と慶太君の姉の茜ちゃんが顔を出す。  茜ちゃんは明るくて、とても可愛い女の子だ。大学まである名門女子高の紺のブレザーとチェックのスカートの制服に紺色のソックスを履いて、ストレートの黒髪は校則で左右に分けておさげにしていた。 「ちょうど良かった! わからない宿題があるの。先生に教えてもらおうっと。先生、待っててね!」  そう言うと、茜ちゃんは一旦、二階の自分の部屋に上がっていった。  しばらくして、茜ちゃんは可愛い私服に着替えて戻ってきた。 「この数学の問題ね……」  この家での僕の定位置になってしまったリビングのソファに茜ちゃんも座り、テーブルに教科書を広げる。僕に説明するためか、さらに体を寄せてくる。おさげの髪をほどいたサラサラのストレートヘアからなのか、優しいフローラルの香りがして、僕はどぎまぎした。 「もう、茜ったら、悠斗先生は慶太の家庭教師なのよ」  僕の前にお茶を置きながら麻子さんは困ったように言うが、茜ちゃんは、「いいでしょ。どうせ先生、ここで待ちぼうけなんだから。ね」と屈託がなく、僕に同意を求めてくる。 「あ、うん……。僕は構いません」と、僕は麻子さんに言う。  僕にしても、ただ待つだけで働きもせず、夕飯をご馳走になるのはさすがに気が引けた。だから茜ちゃんが仕事を与えてくれるのは大助かりなのだ。
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