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2. 慶太君
最初の面接で麻子さんから、慶太君が不登校児であることが説明された。
慶太君は小学一年生の時に大きな交通事故に遭った。一時は生死の境を彷徨ったが、なんとか一命を取り止める。しかし、リハビリも含めて長い入院生活を送ることになってしまった。
やっと学校に戻った時にはクラスメイトの関係性はできあがってしまっていて、繊細な慶太君はクラスに馴染むことができなかった。
慶太君はだんだんと学校を休むようになり、小学二年生からは一切行かなくなってしまったらしい。
勉強自体は嫌いじゃなかったようで、通信教育や家庭教師を利用して学習は続け、その年相応、いやそれ以上の学力はついていた。しかし、昨年担当したバイト学生が強引すぎたようでうまくいかなくなり、家庭教師を拒否するようになってしまったという。
それから家庭教師を何人か替えたが、慶太君は自分の部屋から出てこなくなり、またお母さん以外の人が部屋に入ることを拒否するようになってしまったそうだ。
「ですから、慶太が授業を受けるというまで気長に待ってくださる先生がいいんです」
そう麻子さんに言われて、僕は了承した。内心、教えないでお金が入るかもしれないなんて、ラッキーだと思った。
しかし、バイトが始まってみると、これが意外ときついということがわかった。
最初こそ、鍵のかかった慶太君の部屋のドアの前で名前を呼んでみたり、自己紹介をしてみたりしたが、慶太君は心を開こうとしてくれない。というか、姿を見せようともしない。
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