3. 陰陽師 

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3. 陰陽師 

「安部……」  安部は断りもなしに、僕の隣の席に座る。  僕はこの友人がちょっと苦手だ。    まず最初の出会いが最悪だった。  ── 大学一年の時に学部で同じ専攻の友達が、近くの女子大の子達と合コンを計画し、学食で誘われた。   専攻は違うが幹事と知り合いという安部もその場にいて誘われていたが、「いや、俺はいいや」と断っていた。  そして、安部は僕の顔を見て唐突に、「君も行かない方がいいよ」と言う。 「え? なんで?」 「カップル成立しない上に、災難に遭うから」  なんでそんなことがわかるのか? と不思議に思っていると、「おっ! 陰陽師のお告げだな」とまわりの友達が冷やかす。  安部には不思議なものが見えたり、先のことがわかったりする力があるらしいと、あとで誰かが説明してくれた。  キャンパスを一人で歩きながら、誰かにぶつぶつ話しかけたり、ベンチに座っているとカラスが周りに集まってきたり、それ系の噂には事欠かないそうだ。  その上、安部(あんべ)清矢(せいや)という名前の字面が、実在した平安時代の陰陽師『安倍晴明(あべのせいめい)』になんとなく似ているので、『陰陽師』とか『セイメイ』というあだ名で呼ばれていた。  安部はやや線は細いけれど、すらっとしたイケメンで、女の子にモテるタイプに見えた。でも言葉が辛辣なので、彼女はいないらしい。  僕はといえば田舎から出てきたばかりだったから、女の子と知り合いたいというよりも、合コンメンバーになって少しでも気の置けない友達を作りたい気持ちが優っていた。  だからカップル成立なんて期待はしていなくて、安部の忠告は聞かずに合コンに参加することにした。
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