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第四章
昼、警備業務の前に一仕事やろうと「本部」を訪れると、空風さんと作田さんが上司席の前で立ち話をしていた。
作田さんは特殊詐欺を主な業務内容としている「本部」の総括をしているリーダーのような人で、年は俺より3歳くらい上の男性。顎鬚が決まっているダンディな人だ。
俺は挨拶がてら、彼らに近づいていった。
「お久しぶりです、空風さん」
「お疲れ、垣根。どう?ここでの仕事は?」
空風さんがいつもの調子で聞いてきた。
その様子に思わずほっと胸をなでおろした。
以前、俺が「本部」で特殊詐欺をしている現状を目の当たりにした時、彼は覚悟を持った、それこそ「人を殺しそうな」冷ややかな瞳をしていたので、今回もここにいる時はそんな表情をいつもしているのだと思った。
作田さんと喋っている時に既にいつものどこにでもいそうな若年層のサラリーマンみたいな様子だったので、そのおかげかもしれないが、、、。
だとすると二人は、お互い心の内をさらけ出せる深い仲なのだろうか。
「段々慣れてきました。この前はイロコイで10万いきました」
「空風さん、コイツなかなか良いですよ。人心掌握に向いてるんじゃないですかね。喰いついた客を逃さないんですよ」
傍にいた作田さんが会話に入ってきた。
「それはすごいな。この調子で頼むぞ。まあそれはそうと昼も夜も働いて大変だけど、大丈夫か?」
あまり気にしなかったが、「すごいな」と言う割にはあまり口調に抑揚を感じなかった。
「大丈夫っす。最近なんだか生きがいを見つけたみたいに充実してます」
「そうか。ならいいんだ」
空風さんは小さくそう言ってから、しばらくして本部を去って行った。
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