第四章

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それからいつも通りデスクに着きPCに向き直り作業をしていた。 こちらの業務も夜間と同様で肉体的な疲労はあまりない。一言で言うと、「レスポンスが来たら応答する」が業務内容なので、気楽にやっている者も多い。 そんな頃、刺青(いれずみ)と暴力的な筋肉質が特徴的な見た目がヤクザの男性がいきなり「本部」に入ってきた。 「!?」 丁度入り口付近のデスクが自席だったこともあり、入ってきた矢先「おい、作田いる?」と野太い声をかけられたので、思わず泣きそうな顔をしながら奥の席に通した。 もちろん初対面で口を利いたことが無く、名前も知らない。始めてヤクザ(多分)を見たが、映画や漫画で見るそれと同様の迫力があり、口喧嘩すら土下座して回避したいレベルだ。 「すみません、今の誰ですか!?」 思わず隣に座る「山岡」という男性に声を潜めながら聞いた。 彼は俺よりも年下の先輩だ。先輩と言っても堅苦しいものはなく気さくに話し合える間柄だ。 確かイロコイのマッチング詐欺をする俺と違って、彼は仮想通貨にも手を出していた気がする。俺も一応紹介されたがシステム上の理解が追いつかず今のところ、保留にしていたんだっけか。 「『特攻隊』の杉本さんだよ」 山岡さんから同じように小声で回答が返ってきた。 「『特攻隊』?」 「知らないのか新入り。うちの用心棒で『特攻隊』のヤクザだよ」 なんだそれは? その言葉に唖然としたが・・・、まあ、「親衛隊」がいるなら「特攻隊」もいるのが定石か・・・? いやでも、ヤクザと協力関係のある会社なんて滅多に無いだろ。 それを聞いてから自分がアンダーグラウンドに身を置いていることを益々実感させられた。 「気になるなら、お茶出し行けば?」 そわそわしているのが気になったのか、彼から作田さんと杉本さんがいる奥の客間を指さされながら言葉をかけられる。 文面からしておかしくないのだが、相手が相手だけあって、なんとなく茶化している様子だった。 「そんなことして変に不備でもあればぶっ殺されますよ!」 そう言うと、彼は口角を上げ小さく笑った。 しかし、しばらくして冷静に考えてみると「特攻隊」の彼の動向も気になってくる。 彼は今、作田さんと客間にいる。部屋の外からならばバレないだろう。 思い切って奥の客間に近づいて聞こえてくる台詞を盗み聞きしようとする。 「おい、勇者だな」 そんなことを言われながらも音を立てずに抜き足差し足で近づいて行く。 最悪、タイミング悪く出てきたら「ごみを捨てに来た」とか適当なことを言って難をしのごう。 そうして扉の前まで来ると、すこーしだけ彼らの言葉が漏れてくるので耳をすませてみる。 「・・・警察と絡んでる半グレ組織なんてのも類を見ないモンだよな。まあ、俺はそこに注目してるからこそ協力関係になってるんだけどよ」 「分かっています。だからこそ、浮気せずに他の組織とのつながりは断ってるじゃないですか。目をつけられても困りますしね」 声で判別するまでもなく話し方の物腰で誰か判別出来る。強気な発言が先ほど入ってきた特攻隊の杉本さんで、柔らかくビジネスマンのような喋る方が作田さんだ。 「それはそうと、なあ、おい。もう少しシノギを増やして上納増やせねーのか?」 「まあまあ杉本さん。さっきも言ったけど、うちは単発じゃないんで。安定的に長期間がうちのモットーみたいなところありますからね。これ以上シノギを増やしたら流石に怪しまれちゃいますよ」 「だからこそじゃねーか。警察とグルならある程度は揉み消せる。それを使わない手はねーだろ」 ・・・そんなようなことが聞こえてきた。 シノギって仕事内容のことだよな、ここだと詐欺のことだ。 以上を聞いた後に十二分に怖くなってきて、すぐに自分の席に撤退した。 「あ、帰ってきた。どうだった?」 山岡さんが業務越しに聞いてきた。 「想像通りでした」 やっぱり本物のヤクザだった。 帰る時もまたここを通るのか、今日は先に上がって空いた時間を家で過ごそうかなと考える。 「俺は知らなかったんですけど、杉本さんって頻繁に来る人なんですか?」 「そんな頻繁には顔を出さないな。時々来るって感じ。・・・何? ビビってるの? 慣れるとそんなにビビらなくなるよ。基本、俺達に用とか無いから声とかけられないし」 「俺は声かけられたんですけどね」 「一瞬だけだったじゃん」 正直にトラウマ級に十分怖かったので、いっそのこと席替えを要求したいところだった。
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