第四章

3/3
前へ
/18ページ
次へ
グループに入社した当時は思いもしなかったが、このグループ企業は、特殊詐欺を主な業務とする「本部」が中心にあり、現警察官の米沢という人が斡旋して出来たそれを守るカモフラージュ組織の警備会社の「親衛隊」。そして裏社会の主役ともいえるヤクザが協力関係にあり、組織内でも親し気(?)に「特攻隊」と呼ばれている組織がある。 この3つを主軸としたグループに成り立っており、しっかりと脇を固めた盤石な仕様に、「こりゃあ陳腐な詐欺集団でも弱小企業でもないな」と感心するしかない。 「(一体この体制を誰が考えたんだ? そもそもグループの代表は誰なんだ? 所属してから一度も会ったことが無い。もしかしたら『官僚』とか『政界』にも組織が関わっていたりするのか・・・?)」 これ以上の権力者が出てこようものなら最早笑うしかなくなる。 「あの、今更なんですけど、このグループの代表ってどういった方なんですか? 絶対ヤバい人ですよね」 「んん。いや、実は知らないんだよなそれが。俺以外にも皆知らない」 「組織にとってトップって結構方向性を左右する重要なポジションだと思うんスけど。文字通りトップシークレットってことですか?」 「そういうことだな。こういう業界だから誰かにリークとかされたくないと思うし。恐らく、各部署を仕切ってる幹部クラスしか知らないと思うぞ。あ、言っとくけど聞いたって無駄だぞ、絶対口を割らない」 「そうなんですか」 いつか、くーね先輩が言っていた「現代版暴走族」。 そして、それ相応の覚悟を持ちながら不正を行い金を稼ぐ在り方は、正に「新たな社会人」の姿なのかもしれない。 ここではそれを見事に体現している。 俺はついこの間まで社会の「しゃ」の字も知らない、忍耐力も乏しいただのひよっこだった。 大人が見ればただのセコイ奴、根性が無い奴。「大人になって何をやっているんだ」と言われる始末だろう。 それを受け入れる覚悟は持っているつもりだ。これで友達や家族に迷惑をかけても俺は後悔はしない。それだけの覚悟は持っている。 経済が悪化し、犯罪が多くなり、治安が悪くなる。その先駆けを自らが実行している。 今までの「仕事」の概念は、「誰かに感謝をされる」、「誰かの為に役に立つこと」だったと思う。 今は従来の社会人とは異なり、覚悟をもって工夫を凝らし「自分が生きるために」金を稼ぐことを必要とされている時代なのだろうか。 「新世代シャカイジン」 このアンダーグラウンドに身を置きながら俺はそう口にした。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加