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第五章
俺たちが所属する詐欺グループの本部に「特攻隊」である杉本さんが顔を出してから数日後。
今日は一日オフということで気が緩み、昨夜目覚ましをかけずに寝床に着くと朝10時に目が覚めた。特に出かける用事もなかったので問題なかったのだが、スマホを手に取ると「最近頑張ってる垣根にご褒美で飯でも奢るよ」と空風さんからのメッセージが入っており、現金にも「奢り」かと舞い上がり即座に了承し、早速着替え始めた。
互いに駅に集合して、落ち合ってからは天気とか時事ネタとかありきたりなことを喋りながら目的地に向かった。こうして街中で喋っていると、自分もそうなんだがとても特殊詐欺に加担している人物とは思わない程どこにでもいそうなにーちゃんに見える。
しばらく歩いて、己の見当違いに気づく。
てっきり以前一緒に行ったラーメン屋にいくのかと思ったら、今回は風情が見られるお高そうな料亭に連れてこられた。
「ここは?」
馴染みのない店を前に思わずそう口にした。
彼は軽快に「行きつけの店パート2」と言うと、店の扉を開けのれんをくぐり抜けていく。
「(こんなところ年に一回親戚含めた家族間の食事会に行く時以来だぞ・・・)」
何のマナーも心得ずしてして、そのままカウンターではなく奥の個室を注文する彼の後ろをコバンザメのごとく付いていく。不安を隠し切れずに導かれるように店の奥にある和室にたどり着くと、早速靴を脱ぎ、座布団の上で正座をするのを早々に諦めて、胡坐をかぐ。
「あ、懐石料理ね。苦手なものがあったら教えて。 コース変えてもらうから」
「えーっと、基本、何でも大丈夫です」
そんなことより若い男が二人で対面でこんなとこにいるのが不釣り合いだろ。
「どうしてこうなったんだ?」と思いながらも、ここまで来てしまったら「タダ飯だからもう何でもいいか」と半ば投げやりにもなる。
「今日、垣根をこんなところに呼んだのはさ。俺の話を聞いてもらいたいなーって思ったからなんだよ。ほら、俺ってあんまり悩みとか打ち明けられる友達いないし、久しぶりに垣根と喋りたいなって」
「いや、空風さん。異業種交流会とかしてるじゃないですか。絶対友達沢山いるでしょ」
「まあまあ。そんなこと無いって」
そう喋る空風さんはまだいつも通りのニコニコとしたフツメンの青年だった。
しかし、彼がこれから話す話は、外面だけでも到底想像もできない壮絶な物語で、彼がまだ詐欺グループに所属していない頃の昔話だった・・・。
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