第五章

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「これからずっとこうなのか」と考えるようになって常に気分が沈んでいる生活が続き、時には生きている刺激が欲しくなり、家で自殺未遂をして生を感じるようにもなった。 スマホの充電ケーブルを大きな本棚に引っかけて、「仕事から帰ってきたら死のう」という精神で出勤する。その頃は少し精神的に楽になれた。何故なら仕事でどれだけミスをしても怒られても、家に帰ったら死ぬのだから最早何があってもどうでもいいからだ。 家に帰ると、早速椅子を大きめの本棚の近くに移動させその上に立って自作の簡易的な首吊り器具として充電ケーブルをひっかけそれを首を通して結ぶ。その時の緊張感と言ったら半端がないものだった。意識してなくても過呼吸になるので自分がヤバいことをしているのが分かる。 だからこそ、椅子の上に立ちながらしゃがむように体重をかけるとしっかり首が閉まるので、それで辞めれるなら、まだ自分は『「生きたい」ということなのだ』と冷静になれた。 それでも止められない時は更にそこから椅子をずらし、更に体重をかける「やばい!!」と思えたり、拒否反応を感じられたら辞める。その繰り返し。そんな生活がしばらく続いた。 数か月後、遂に仕事を辞める決心をした。 いきなり辞めるのはハードルが高い。周りの連中に「コイツ辞めそう」というムーブをまき散らしながら辞める作戦を立てた。 同じデパート内の他のスタッフ数名に軽く「辞めたい」と話をしていると、以外にも親切に相談に乗ってくれて「チャンスを取りこぼさない様に辞めるなら、若い時に辞めた方がいい」とアドバイスをくれるおばちゃんもいた。自分の人生を大事に考えてくれる良い人と思って一時(いっとき)気が楽になったが、後日、俺が退職した後に同期にそのスタッフから「最近見かけないけど風邪でも引いたの?」と素っ頓狂なことを言われた話を聞いた。 どうやら相談に乗ってくれたと思ったその人は、俺のことなんて本気で気にしてなかったらしい。 社会の実態に「寂しいな」と感じ、同時に人は「ドライなんだな」ということを知った。 親から勝手に退職したことを咎められ、無職のまま一人暮らしが続いた。 貯金額が200万近くあったので、すぐに職を探す必要はなかったのでしばらくゆっくり暮らそうと思っていた矢先、偶然テレビで以前学生時代に付き合っていた「元カノ」が自殺したことを明かされ、衝撃を受けた。 一応、別れたとはいえ付き合っていたので後日行われた彼女の葬儀の通夜に参列した。 葬儀自体は結構盛大に行われ以前の友達等学生関係の人だかりが多く、彼女と親しくしていた分いろいろと声をかけられた。 彼女の死因が飛び降り自殺でその際に後頭部が砕けた為か、献花で祭壇に足を運んだ時には首から上を隠すように棺桶の中に大量の供花が敷き詰めてあった。 その瞬間、今までの鬱憤が突如確かな感情になったかのように社会に対しての明確な怒りと、それと同時にこの理不尽な社会と戦う覚悟を誓った。 それから全うな職を避けた金の稼ぎ方を調べていたところ「特殊詐欺」のことを知った。 それは、富裕層に都合の良い労働者ではなく、この国の害でもあり、都合の悪い犯罪者として生きる道。上等だった。どうせ他人の事を考えてる大人は、自分の立場を維持するので精一杯でいないに等しい。 タイミングの良いところに後輩から仕事を辞めようか相談され、初めは二人でイロコイの特殊詐欺を始めることにし、それから幼馴染の米沢も誘い、結果的に自分たちの組織は人数を増やし半グレグループとして大きくなっていった・・・。 『垣根。自分は「ヤクザ」や「暴力団」などの反社会勢力のことをあまり詳しくない。でも、自分は以前自殺未遂をしていた人間だ。もし警察にパクられて無期懲役、最悪の場合、死刑を食らっても、それを受け入れる覚悟はある』
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