最終章

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重たい話が終わるとタイミング良くご馳走のような食事が女将によって運ばれてきた。 素人ながら「おお・・・!」とか小さく感歎の声を上げてから並ばれた和食の数々に早速箸をとって口にする。 「とろける程」とまではいかないが、腹が減っていたこともあり、何とも若者二人には不釣り合いな豪勢な懐石料理に箸が止まらなかった。 二人してしばらく食し、満腹気味になったことで、先程の話に話題が戻る。 「あの、経歴も浅い俺なんかに話してよかったんですか? 親切心だけって感じじゃないですよね」 「流石ご名答。垣根には近いうちに幹部候補に昇格してもらおうと思ってね」 何故このような仰々しい料亭に誘われ、しかもわざわざ個室で素性を明かした理由は、単純にまず特殊詐欺の代表として他人に聞かれたくなかったから。そして、俺が幹部候補に昇格する為の所謂クロージング効果が大きいだろう。 「幹部、候補・・・?」 思わぬ事態の行き先に幼稚にもそのまま聞き返してしまった。 「おまえは俺の生い立ちとよく似ている。だから信頼出来るし、社会の厳しさを身をもって知っているから、人一倍覚悟がある」 「それは、そうかもしれませんけど・・・。でも、知っての通り俺社会経験がほとんど無いんで、金周りの管理とかやったことないですよ」 「それは、実際に金を稼いでから考えることだ。正直なところ杉本さんからシノギの件について口うるさく言われ続けて参ってるんだわ。今までは必要以上に大金を帰ぐ事を遠慮して流してきたけど、でもお前なら任せてもいいかなって思って。やるだけやってみて欲しいのよ」 幹部・・・。つまりは組織の上層に立つ者だ。 組織に関わって以来、日が経つにつれどんどん自分の身がアンダーグラウンドに染まっていくのを感じる。 俺にそんな覚悟があるのか? 順調に不良の道を突き進んでいるが、時折来た道を戻って全うに働くことを考える。寿命を縮めていることに抵抗が無いわけがない。短い期間で自分は正規な社会人として立つことを諦めたが、その判断は早計だったかもしれない。 空風さんも元は俺のような大学卒の一般の社会人だったのなら、先輩である彼の心境はどうなのだろうか・・・?身内のこととか考えないのだろうか? 「あの、もう少し聞かせてもらってもいいですか? 話によると警察官の米沢さんが幼馴染ってことになるんですけど、もしかしてこの詐欺グループの幹部は元々空風さんの知り合いなんですか?」 「全員ってわけじゃないけど、よねちゃんは・・・あ、米沢ね。米沢は高校の時の友達で警察志望だったから連絡してみただけ。ちなみに警備会社の社長は米沢の後輩。で、作田は前職の俺の後輩。後はそういった身内の繋がりは無いかな。あくまでも特攻隊はあっちから持ち掛けられて、だから今でも昔も協力関係。みかじめ関係じゃないだけマシかなって感じ」 「なるほど」 「特攻隊」に関しては結構シビアな繋がりだなと感じられる。 「こんなこと総括の俺が言えたことじゃないけど、『特攻隊』なんて愛称で呼んでいるけど、彼らには気を付けた方がいいよ。向こうは誰が敵になるか分からない根っからの裏社会の住人だから俺達みたいな表舞台からなり下がった人間をあまり快く思ってない」 「そんな脅さないで下さいよ。この前一言声かけられただけでビビり散らかしてた俺はどうすればいいんですか?」 冗談半分で言う俺に、大したアドバイスもなく「頑張れ」とだけ言われた。 こういうことに関しても、覚悟と知恵を試されているのかもしれない。
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