第一章

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空風さんの話を聞いてから、実を言うと帰宅途中から「転職」について心が傾いていた。 それから数日間悩んだ末、今の仕事を辞め、彼の仕事場で働くことにした。 内心、一刻も早く今の職場から逃げたかったのだ。 まあ、そのことで親には猛反対されたのだが・・・。 予想はしていたが、お互い口喧嘩の末、実家暮らしの身「どうしても今の会社を辞めるなら家を出ていけ」と言われる始末。 俺が工場内でどんな気持ちでどんな仕事をしているのかも知らないくせに・・・。 親には俺が大企業で勤務していることが大変お気に召していたのだろう。 心配事を増やされるのを露骨な程嫌っている上、今いる大企業内での立ち位置から得体も知れない会社への転職に「ありえない」様子が見て取れた。 確かに、空風さんのグループ会社について詳しく聞かなかったのが気がかりだが、今の俺の精神状態と会社での孤立した立場を考えると、せっかく誘ってくれた手前、乗り掛かった舟から降りたくはなった。 結局、俺は自分を救う意味でも会社を半ば無理やり辞める算段を実行し、家を出ていく決意をした。 自分の直属の上司に「人間関係で困っている」旨を打ち明け、統括長クラスのお偉いさんに何度もサシで話し合い、「もう転職先が決まっている」と持ち掛け、時には「転職先での業務を既に内職でやっている」とかなんとか戯言を織り交ぜながら早い段階で退職することに成功した。 正直、辞めた後の話、工場のことなんてどうでもよかった。 会社の人間にどう思われようともう一生来ないのだから関係なかった。 有休消化の間、家を出ていく準備に取り掛かり、親はまさか本気にするとは思ってなかったので、しつこく後戻りするよう訴えてきたが、俺は聞く耳を持たなかった。こんな親捨てて俺は別の場所で生きていく。 学生時代に一人暮らしを経験していた為、久しぶりのアパート暮らしと共に、都心に生活を置いた新たな生活が始まった。 当時、一人暮らしをしていた頃は、学業とバイトの多忙の中でも楽しく暮らしていけたので、新生活に心躍らせていたが、やはり都心の生活に乏しかった部分もあり悩んでいたところ、空風さんがいろいろと相談に乗ってくれた為、安心して新生活をスタート出来た。 何故そこまで親身になってくれるのかと疑問に思っていると、空風さんから「自分も以前同じようなことがあったからほっとけない」と言われた。
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