第二章

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「これは、一体・・・!?」 本部という名の小さなオフィスビルの一角に案内された俺は、その光景を目の当たりにした。 なんと、そこでは10人程の若者がPCを使い特殊詐欺をやっていたのだ。 難しいことは分からないが、いかにも職質されても「サラリーマン」と言い張れるようなスーツを着込み、自分と同じような年齢の若者がPCの前で原稿を見ながらメッセージや画像を送ったり、他にも少数のグループで演劇しているような状態で片手にスマホを持ちながら誰かと連絡している。 「見て分からない? うーん、察してほしいんだけど」 そう空風さんに言われずとも状況は痛いほど分かった。 又、自分たちがコレのカモフラージュの為に警備勤務に就いていることも理解した。 どうりで業務に関らず給料が良いわけだ。 つまりこれで稼いだ違法な大金を俺たちが警備業務として働いていることで使える金に変えている。早い話がマネーロンダリングというやつだ。 思わず詐欺の片棒を担いでいたことに心が揺れ動く。 「一刻も早くここを辞めなければいけない!」と考えるも、自分も間接的にグループの片棒を担いでいるので、もしかしたら僅かでも一緒に罪を背負うことになるかもしれないと思うと、容易に部外者に打ち明けられなくなる。 そんな情緒不安定な自分に空風さんから訴えられる。 「思い出してみろよ、前職でのことを。『社会に殺される』。そう思って精神がまいってしまう前にうちに来たんじゃないのか?何年も学生やっていていきなり社会に出ると異世界転生でもしたかのようになるよな。何の知識も技術もない奴がいきなり社会に出るとそりゃあ殺されるかもな。それくらい社会は厳しい。それ相応の覚悟がないとやれない、社会ってのはそういうシステムだ。だから死ぬくらいなら少しでも延命できるよう知恵を絞る。これは、精神が病むより、非行に走るより、思考停止にならない中で少しでも社会の中で生き抜くための術だよ」 その時の空風さんはいつものどこにでもいる普通メンではなく、狂気にも似た覚悟を持った危険な男の顔に見えた。
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