第三章

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後日、睡眠をとってキチンと出勤した。 一人で悩むには社会経験が乏しすぎた俺は、くーね先輩に相談することにした。 「くーね先輩は会社のこと、全部知ってたんですね」 「まあ、私は本部と掛け持ちしてるからね」 「え!? そうなんですか? 道理で詳しいわけだ」 「別にそういうわけじゃ・・・、お前と一緒ではじめはこの『警備』だけをやってたさ。でも、もっと金が必要になって『紹介してくれ』って言ったらやらせてもらった。まあ、確かに『本部』と『親衛』どっちもやってるのは私くらいだけどな」 その台詞から、彼女は親衛隊という名の警備会社の所謂カモフラージュ係をしながらも、実際に本部で特殊詐欺をしていることを知った。 「その『親衛隊』ってのも『隠語』だったんですね。正直、最初は暴走族を連想しましたよ」 「あー、その発想。あながち間違ってないかもな。多分そう言う意味でつけられたんだと思うぞ。現代版かつ大人版『暴走族』ってことで」 「なるほど」 今は警察の権力が強いし、景気が悪い中で目立って悪質な行為は誰も率先してしないだろう。 「暴対法」ってのもあるくらいだし。一昔前のファッションを未だにするように、もうそういった類全般は時代遅れなのだろう。 「ちなみに、その、『お金が必要になった』理由っての聞いてもいいですか?」 その後、少し沈黙が流れたことで、俺は不躾な質問をしてしまったんだと自覚した。 先輩とは最近よく話すようになったとはいえ、失礼なことを聞いてしまったが、それでも彼女は口を開いてくれた。 「祖母が家で寝たきりなんだ」 俺はその一言でなんとなく理解した。 「少し前までお母さんが介護してたんだけど、突然いなくなって、多分逃げたんだろうな。それで金が必要になって」 一気に場の空気が重くなった。 「そうだったんスか。すいません、要らぬことを聞いてしまって」 「ったく、ホントだよ」 そう言って先輩はまたいつもの調子に戻って、俺はわけがわからずにジュースをおごらせられた。 別に悪いことがしたくてしているわけではない。自分の為にやっている。 彼女の話を聞き、考え方が変わり、決心がついた。 俺は再び空風さんに連絡をとった。 すると唐突に「転職する?」と彼が聞いてきた。こちらの気持ちなどお見通しなのだろう。 「いえ、不思議と今、転職しても『どうせ前と同じなんだろうな』って感じます。だから、空風さん。俺を本部でも手伝わせてください」 「覚悟は・・・あるみたいだね」 「はい。俺は前職で、このままここにいるのは危険だと感じました。今思えばあれは、俺が考えたことじゃない。体が本能に訴えてきたことなんです。だからもしあのままあそこで働いていたら俺は死んでいました。もっと言うと俺みたいな中途半端で覚悟のない奴は社会では生きていけない。だから学生を辞めた時点で死ねばよかった。でも俺はこうして生きている。言わばこれは俺の人生の延長戦なんです」 だからいつ死んでもいい。どんな汚名を抱えようと、生き続けるには覚悟がいる。 こうして俺はくーね先輩と同じように、夜勤は警備業務をし、昼にはグループの特殊詐欺で設けている「本部」とよばれる組織の手伝いもするようになった。
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