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すれ違う人ほぼ全員が天宮様?と不思議そうな顔で振り返る。外へ出る生徒と逆行して1人階段を登っていく俺、疑問に思うのも当然だろう。
何かお困りですか!?と尋ねてくれる親切な人もいたけど、なんせ急いでるもので。説明する代わりに、大丈夫だよという意を込めて微笑んでおいた。途端赤くなって頷いてくれたから伝わったのだろう。
「……いない?」
昨日と同じく真っ暗な部屋に足を踏み入れたところで、すぐに靴がないことに気づく。名前を呼んでみても、勿論返事はなかった。
一体どこへ?
夜ご飯の時はいなかったけど……あ、体調が良くなったのかな……
ということは、キャンプファイヤーには参加するのかもしれない。
それならばと踵を返し、来た道を戻った。
キャンプファイヤーはクラスで分けられてるらしいし、きっとすぐに見つけられるはず。
「いーよなぁ、勉強できるだけなのに特別扱いされちゃってさー」
と、階段を降りようとしたその時、上から聞こえてきた声にピタリと足を止めた。
そしてその後に続けられた言葉に、スっと心が冷えていく。
「そんなナリでおまけにド庶民のお前がさぁ、
ほんとなんで…………あぁ、わかった」
「な、なにす」
「身体、使ったんだろ?Sになれるくらいってさぁ、こっちの具合がそんな最高なんだ?お前」
「ひ、」
「なるほどなー、へえ?
そーゆーことならさぁ…試させろよ」
「っいた、ぅ、離せ!」
「黙れよ、殺すぞ。まあ、騒いだところで今の時間誰も来やしねぇけ────── ぐぁっ」
鈍い音と共に男が倒れる。
あぁ、加減は出来なかったみたい。反省はしてないけど。
倒れた男に冷ややかな目を向けながら、その視界の端で驚いた表情の彼を見た。少し襟元が乱れているものの、大事には至ってないようだ。
何を言うこともなくただ地面に寝そべる男を見つめていると、ぐぅ、と唸りながらモゾモゾと動きだした。気を失うほどではない。突然後ろから頭を蹴られた衝撃で軽く脳震盪を起こしているだけだろう。
「ん…なん、だ?いっってぇ」
「……」
「あ…?誰だお前、ぶん殴」
「じゃあ、行こうか」
「あぁ!?」
「ぇ……」
俺の姿を視界に捉えた瞬間睨みをきかせてきた男をよそに、少し先へ進んだ俺はまだ唖然と立っている相馬くんに振り返って微笑んでみせた。そろそろ全員が集まった頃だろうし、早く行かなきゃ。
ほら、と手招きした俺を見て、数秒固まっていた
相馬くんはやっと歩き出す。
まだ混乱している様子で、それでも俺の言葉に従った相馬くんが俺のいる場所まであと1歩のところ。
身体を起こし、視線の先で男が嘲笑うかのように顔を歪めた。
「お前、今からそいつに慰めてもらうのか?そーやって媚び売ってんだろ、クソビッチが」
「っ……違う」
「じゃあなんだよ、まさかお友達ってか?んなわけねーだろ、お前みたいな奴に」
「友達だけど、それがなに?」
よくもまあつらつらと、ここまで馬鹿げたセリフが思いつくものだ。そう言い切った俺に、それでも尚下卑た笑みを浮かべる男。
「はっ、そんな庇うほど良かったんだ?そいつの
身体。 でもあんただって内心思ってんだろ?こいつみたいな能無しがSなんておかしいって」
「だから……っ相馬くん!」
まだ続けようとする男に言い返そうとしたところで、ぷるぷると震えた相馬くんが制止の声を振り切って走り去ってしまった。
方向的に部屋に戻ったのか。
やっと会えたのにまた……とやるせなくなる。
「は、逃げやがって図星かよ」
しかし、そんな今すぐ追いかけたい気持ちを抑え、未だケタケタと笑う男に近づいた。
不愉快に引き上げられた口角に手を伸ばす。
「なにす、んぐっ!」
頬を鷲掴まれモゴモゴと抵抗する男を壁に押しつけ、すっかり冷えきった頭で口を開いた。
「彼がそんなに羨ましいの?彼が能無しなら、Sにもなれない君は一体何なんだろうね?
まあそもそもそんな指標に拘ること自体、俺からすれば心底馬鹿馬鹿しいんだけど」
「んんん!」
「でも君はそうじゃないらしい。勉強だけで特別扱いなんて有り得ない、ね。そう思うのなら君も試してみればいいよ。
その身体を使って、媚びを売ればなれるんだろう?君の憧れてやまないSクラスとやらに。
まあ、頭も悪い君には難しいかもね?」
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