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長い長い講習が終わって夜ご飯を食べれば、残すところはキャンプファイヤーのみとなった。
火を囲んでミニゲームをしたりみんなで歌を歌ったりするらしく、キャンプファイヤー初体験の俺は既にウキウキが止まらない。同じ夜でも昨日とはこうも違うものか。
2泊3日のこの行事。
明日ここで朝食をとって学園へと戻れば合宿はおわり。始まるまでは山がどうだ虫がどうだと騒いでいたクラスメイト達も、今となっては合宿が終わることを憂いている。
山の空気の美味しさを知ってしまった人なんて、どうやってここの空気を持って帰れるのかを真剣に悩んでたりして微笑ましかった。
まあ、最終的にゴミ袋に入れればいいじゃん!と中々陳腐な…いや、斬新な案に落ち着いたのはびっくりしたけど。
夕食後の雑談話に花を咲かせるクラスメイト達の中、俺はふと正面に目をやる。
ぽつんと1つだけ空いた席。
相馬くんは結局、今日1度も顔を出すことは無かった。昼も夜も食事は部屋に運ばれているそうなので食欲はあるのだろうが、流石に心配になってしまう。
このまま外に出る前に部屋に戻ろうかな、何か差し入れとか持って──────
が、そこまで考えて、立ち上がろうと踏ん張った足の力を緩めた。
蘇るのは昨日の記憶。
『偽善者』
最後にそう吐き捨てた相馬くんを思い出す。
「瑞樹ちゃーん、行っこーう!」
講習の時とは打って変わり、キラキラと目を輝かせた透が向こうの扉の前で手招きするのが見える。
それに頷いて立ち上がったが、数歩歩いて踏みとどまった。
このままでいいのか?
「?瑞樹ちゃん」
昨日の相馬くんの表情はどんなだった?
ただ怒りに任せて言ったように見えたか?
違う。
「もううんざりだ」って言った彼は、今にも泣き出しそうな、傷ついたようなそんな顔で───
「ごめん!先に行ってて!」
「え!?」
自分を呼ぶ声を背に駆け出す。
そうだ。
ちゃんと顔を見て話さないと、そして謝らないと。
過去の相馬くんに何があったのかは知らない。
でも、昨日あの時、あの瞬間の彼を傷つけたのは間違いなく俺だったんだから。
また偽善者だって言われたってそれでいい。
このまま終わってしまうことの方がよっぽど後悔するに違いなかった。
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