愛、再び

相談セミナーにて

　ちゃんとした人間になるための、相談セミナー会場——。

「失礼しますぅ」

　僕は恐る恐るドアを開けた。部屋の中には、既に他の参加者が来ていた。
　ここは、ちゃんとした人間になろうと、日々もがき苦しみ生きている人たち向けに開催されたセミナー会場。

　部屋の第一印象は、狭い。
　六畳ほどの広さにペルシャ絨毯が敷き詰められ、四つの椅子が各々の中央を向くように設置されている。
　摺りガラス状のつい立てで仕切られ、お互いの顔が見えないようになっていた。入場の際に鉢合わせないよう時間をずらしているところも、ちゃんとプライバシーが守られていて感心した。

　さらにルールがあり、個人情報を伏せるため、本名を名乗る事が禁止された。その代わり、アルファベットが付与された。僕はＫ。名前がケンイチだからＫだと思う。僕から見て斜め右の人はＡ、正面の人はＢ、斜め左の人はＰ。この部屋にいるのは、僕たち四人だけだった。

　どうやって進めるのか不思議に思っていると、天井から放送が流れた。

「それでは、只今よりセミナーを始めたいと思います。このセミナーに講師や進行役はいません。お互いの想いを打ち明け、自分では気づけなかったヒントを他の人から得ることを目的としています。双方向の議論が望ましいので、聞く側の人はどんどん質問をしてください」

　進行役がいなくて、会話ができるのだろうか。最初に話を切り出す勇気はないなぁ。
　すると、すぐに話し始める人がいた。