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「私には好きな人がいます。その人は一国の王子。でも、私とその人は住む世界が違い過ぎて会うことすらままならないんです」
そう切り出したのは、僕の斜め右に座っているAさん。おっとりとした優しい喋り方から、恐らく女性だと思う。Aさんは続けた。
「もしもまともな人間になれたなら、あの人へまた会いに行ける」
なんて積極的な人なのか。王子とか云っているから、出身は日本ではないのかもしれない。話しやすい人だと思い、さっそく質問してみた。
「会ったことがあるのですか?」
「はい、海辺で見かけたんです」
相手は王子。住む世界が違うということは、もしかしたら階級が月と鼈なのかもしれない。訊いてみよう。
「失礼な質問をしますが、Aさんは庶民ですか?」
「私は、お姫様です」
「え! じゃあなんで?」
「だから、あのお方の住む世界は、近いようで遠い。私は、自分の世界から出られないの」
引きこもりだ。この人はお城の中に引きこもっていて、自分の殻を割ってキラキラした外へ出たいけど勇気が持てないんだ。
「私、心を割って相談できるのはお魚さんだけなんです。お魚さんが私の友達なんです」
やっぱりそうだ。部屋で飼っている熱帯魚か金魚、はたまたメダカが心の友なのか。僕とは境遇がだいぶ違うんだな。
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