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次に話し始めたのは、僕の斜め左に座っているPさん。
「僕は生まれた時からおじいさんと二人暮らしをしています。勇気をもって正しい行いをすれば、ちゃんとした人間になれるって聞いているんですが、すぐ誘惑に負けてしまうんです」
「どうしてPさんは、ちゃんとした人間になりたいんですか?」僕は質問した。
「おじいさんが僕をちゃんとした人間にしたがっているんです。僕はおじいさんの願いを叶えてあげたいんです」
よっぽど、やんちゃな人なのだろうか。おじいさんに迷惑ばかりかけて、「ちゃんとした人間になりなさい」って、きっと普段から言われているんだろうな。
「俺は、早く人間になりたい」
今度は正面に座るBさんが喋り始めた。
『ちゃんとした』という修飾語が無いと意味が変わって聞こえるな。
「もう一度言う。俺は、早く人間になりたいんだ」
どこかで聞いたことのあるフレーズのようだけど、ストレートな言い方をするBさんは、とても興味深い人だと思った。
「どうして人間になりたいのですか?」
「俺は人間の成り損ないなんだ。見た目が化け物染みている」
この人は、きっと辛い幼少期を過ごしてきたのかもしれない。子供は容赦なく心無い言葉を浴びせる生き物だから。
「でも、人間が好きなんだ。だから普段は人間の恰好に変身して、人間社会に溶け込んで暮らしている」
変身? 変装の間違いじゃないのか。本当に面白いワードを使う人だと思った。
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