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ねがい
僕は眠っていたみたい。
どれくらい時間が経ったのだろう。
玄関が騒がしい。
ユリちゃんのお父さんとお母さんが、どうしてだろう、慌てている。
玄関に二人増えて四人になった。一人はユリちゃんだ。ユリちゃんの音が聞こえる。来てくれたんだ。いつも通りユリちゃんは、最初に僕のそばに来てくれた。
「ケンイチ、よく頑張ったね」
(はは。ちょっと疲れちゃったんだ)
ユリちゃんは僕の頭を優しく撫でてくれた。
「もう大丈夫だよ。私がそばに付いてるから」
「ユリちゃん、ありがとう」
ユリちゃんは、反射的に顔を上げた。まるで僕の言葉に反応したようだった。
「ケンイチなの? ケンイチの声なの?」
クロスさせた前脚の上に顎を乗せた僕は、力の限り重たい瞼を持ち上げ、じっとユリちゃんを見つめた。不思議なことに、僕の言葉がユリちゃんに聞こえている。
「僕は、ユリちゃんにとってどんな存在でしたか?」
充血した眸で顔を綻ばせたユリちゃんは、ほんのり紅潮した頬を小さく持ち上げて言った。
「家族よ——」
その言葉を聞いた僕は、全身の力が抜けフワリと瞼を下ろした。
ユリちゃんは、何度も「ケンイチ、ケンイチ」って名前を呼んだ。でも、僕の声がユリちゃんに届くことはもうなかった。
人間にならなくたって切れたりしない絆。それが家族だと気付いた。もし生まれ変われるチャンスがあるのなら、またユリちゃんの家族になりたいと願った。
ユリちゃんが生まれて二十二年。僕の寿命はとっくに過ぎているはずだけど、ユリちゃんと離れたくなくて今日まできてしまった。でも、ここまでかな。僕は、二度と目覚めることのない深い眠りに着いた。
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