N極~Side:木下~

5/8
前へ
/182ページ
次へ
俺は目の前の仕事に没頭した。 今頃、並木も慣れない土地で頑張っているだろう。 俺も負けていられない。 集中していたせいか、昼休みになったことに俺は気づかなかった。 「木下、昼だぞ~」 「羽鳥先輩、お疲れ様です。もうそんな時間ですか?」 「うん、12時過ぎてる。」 羽鳥先輩とは、並木と付き合い初めてから、あまり話さなくなっていた。 先輩も俺たちの関係を察しているのか、俺を飲みに誘わなくなった。 だから、今日、久しぶりに声を掛けられ、俺は内心驚いた。 「集中してて気づかなかったです。」 「ははっ、木下ってそういう所あるよな。」 「昼どうしようかな。」 俺は呟いた。 最近は毎日、並木と食べていた。 並木の作ってくれた弁当を会社の屋上で食べたり、外に食べに行ったり。 俺が悩んでいると、羽鳥先輩が口を開いた。 「久しぶりに飯でも行くか?」 「そうですね。」 「いつもの蕎麦屋でいい?」 「はい。」 俺は羽鳥先輩と一緒にエレベーターに乗った。 2人きりの密室。 なんとなく気まずい。 俺は適当な会話を探したが、生憎、なにも浮かばなかった。 「なぁ、木下。」 「ど、どうしました?」 「並木とはうまくやってる?」 「ごほっ…え…」 「ははっ、俺に隠せるとでも思ってた?」 「いや、その……」 「大丈夫。誰にも言わないから。」 「ありがとうございます。」 「ほら、行くぞ。」 羽鳥先輩は、以前と変わらぬ態度で俺に接してくれた。 しかし、この時、俺は何も知らなかった。 羽鳥先輩の本当の気持ちを。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

181人が本棚に入れています
本棚に追加