181人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は目の前の仕事に没頭した。
今頃、並木も慣れない土地で頑張っているだろう。
俺も負けていられない。
集中していたせいか、昼休みになったことに俺は気づかなかった。
「木下、昼だぞ~」
「羽鳥先輩、お疲れ様です。もうそんな時間ですか?」
「うん、12時過ぎてる。」
羽鳥先輩とは、並木と付き合い初めてから、あまり話さなくなっていた。
先輩も俺たちの関係を察しているのか、俺を飲みに誘わなくなった。
だから、今日、久しぶりに声を掛けられ、俺は内心驚いた。
「集中してて気づかなかったです。」
「ははっ、木下ってそういう所あるよな。」
「昼どうしようかな。」
俺は呟いた。
最近は毎日、並木と食べていた。
並木の作ってくれた弁当を会社の屋上で食べたり、外に食べに行ったり。
俺が悩んでいると、羽鳥先輩が口を開いた。
「久しぶりに飯でも行くか?」
「そうですね。」
「いつもの蕎麦屋でいい?」
「はい。」
俺は羽鳥先輩と一緒にエレベーターに乗った。
2人きりの密室。
なんとなく気まずい。
俺は適当な会話を探したが、生憎、なにも浮かばなかった。
「なぁ、木下。」
「ど、どうしました?」
「並木とはうまくやってる?」
「ごほっ…え…」
「ははっ、俺に隠せるとでも思ってた?」
「いや、その……」
「大丈夫。誰にも言わないから。」
「ありがとうございます。」
「ほら、行くぞ。」
羽鳥先輩は、以前と変わらぬ態度で俺に接してくれた。
しかし、この時、俺は何も知らなかった。
羽鳥先輩の本当の気持ちを。
最初のコメントを投稿しよう!