雪解け

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 達也は荷物を部屋に置くと、リビングにやって来た。この家のテレビは、リビングのみだ。達也は東京から持ってきたテレビゲームのハードとソフトを持っている。瑞穂と宗也はそれを興味津々で見ている。テレビゲームを見るのは初めてだ。 「テレビゲームを持ってきたんだ」  瑞穂と宗也は達也が持ってきたゲームソフトを見て、驚いた。こんなに持っているとは。ここではテレビゲームを持っている子供はそんなにいない。テレビゲームは初めて見た。 「うん」 「ここからゲームが売ってる家電量販店までは1時間ぐらいなんだよ」  瑞穂と宗也は健太郎と共に家電量販店に行った事がある。だが、それは家電を買うためだけで、テレビゲームは買わない。  こんなに遠くにあるなんて。東京に比べてずっと遠い。とても1人では行けないな。買いたいけど、これだけ遠いと買おうと思わない。 「そんなにかかるの?」 「東京とは違うんだよ」  達也はテレビゲームの電源をつけた。瑞穂と宗也はゲーム画面に興味津々だ。 「そうなんだ・・・」  と、そこにさくらがやって来た。仕事の合間にやって来たようだ。 「どうした? 東京の方がいい?」 「うん」  達也は素直だ。ここと東京なら、東京の方がいいに決まっている。豊かだし、便利だし、比較的温暖だ。 「次第にわかってくるよ。ここで暮らす事の素晴らしさが」  さくらは笑みを浮かべた。さくらはこの幌鞠が好きだ。寒いけど、自然の神秘を感じる事ができ、寒い冬を越え春を待つ人々の温かさが、自分を癒してくれる。 「本当?」 「うん」  さくらは達也の肩を叩いた。本当にここの良さがわかってくるんだろうか? 寒くて何もない。そんな幌鞠にどんな魅力があるんだろうか?  次の日、今日は小学校の始業式だ。今日から新しい学校での生活だ。東京の小学校とは違い、少人数だ。一体どんな学校だろう。達也はわくわくしていた。  達也と瑞穂、宗也は雪の壁が続く道を歩いていた。瑞穂は3年生、達也と宗也は2年生だ。 「今日から新しい小学校だね」 「うん」  達也は新しい小学校での生活が楽しみでたまらない。どんな小学校なんだろう。とても気になる。 「佐尻別(さしりべつ)小学校って、どんなとこ?」 「生徒が10人の小学校」  達也は驚いた。こんなにも小さいのか。東京の小学校の1クラスよりも少ない。これが田舎の小学校だろうか? 「10人?」 「少ないでしょ。驚いた?」  瑞穂は笑みを浮かべた。少ないけれど、全員がまるで家族のように仲良しで、小学校はまるで1つの家のようだ。 「うん」  歩いて数十分、3人は佐尻別小学校にやって来た。明治時代に開校した小学校で、かつては何百人もの生徒がいたが、現在は全校生徒はたったの10人だ。廃校の予定はないが、予断を許さない状況だ。  1階の職員室にやって来ると、2年生の担任、松山先生がいた。この小学校にやって来て5年目だ。2年生は達也と宗也の2人だけだ。 「転校生の谷川達也くんだね」 「はい!」  達也は笑みを浮かべた。この人が担任の松山先生か。これからの生活が楽しみだな。  その頃、体育館に集まった生徒は、始業式をしていた。体育館は広いが、それを持て余すほどの人数だ。東京ではもっと多くの生徒がいるのに。  その頃、生徒たちはひそひそ話をしていた。話題は、転校生の達也の事だ。 「転校生?」 「東京から来たんだって」  生徒は驚いた。東京って、都会だ。どんな子だろう。楽しみだな。早く友達になりたいな。 「へぇ」  と、松山先生に連れられて、達也がやって来た。これが転校生の達也なのか。生徒たちは興味津々で見ている。 「今日からこの学校に来ました、谷川達也くんです。みなさん、仲良くしてくださいね」 「はーい」  生徒たちは元気に答えている。達也は笑みを浮かべた。ここなら頑張れそうだ。  帰り道、達也は隣の母音知(もねしり)に住む翔太(しょうた)と共に歩いていた。翔太は4年生だ。 「たっちゃん」 「何?」  達也は振り向いた。達也は笑みを浮かべた。今日だけでみんなと友達に慣れた。これが人数の少ない小学校の魅力だろうか? 「東京って、どんな所?」  翔太は東京に興味津々だ。東京はまだ行った事がない。図鑑や社会の授業でしか聞いた事がない。いつか行ってみたいな。そして住んでみたいな。 「いろんな物があって、豊かな所だよ。こことはまるで正反対だよ」 「へぇ」  翔太はうらやましく思った。自分もこんな所に住んでみたい。もっと豊かな生活が待っているに違いない。たくさん勉強して、東京の大学に行って、そこに住むんだ。 「東京の学校って、どうなん?」 「もっと人が多いよ。授業が組ごとに分かれてるし、とっても賑やかなんだよ」  佐尻別小学校はクラスが一緒になっていて、それぞれ別の授業を1つのクラスでしている。人数が多いと、こうなるんだろうか? これが普通なんだろうか? 「そうなんだ。いつは僕も行きたいね。札幌とは比べ物にならないほど賑やかなんだろうな」  北海道の中心都市、札幌は東京に似ている。テレビ塔があって、大通りがあって、地下鉄、路面電車もある。東京ほどの規模はないものの、大都会と言える場所だ。 「東京にいた頃はいろんな物を簡単に買う事ができたのに、遠くてなかなか買えないんだよなー」  達也は残念がっている。ここは周りに買い物をする場所がなく、健太郎のミニバンか少ない路線バスが重要な足だ。東京にいる時は、歩いて行けたのに。不自由だと思い始めてきた。 「わかるわかる」  翔太は達也の気持ちがわかった。それが普通だ。だけど、東京では味わえない何かがある。きっと達也にもわかるはずだ。 「東京が恋しいよ」  達也は東京が恋しい。死んだ両親と過ごした東京での日々。それは最高の日々で、当たり前の日常だった。だけど、交通事故によってそれは失われた。そして、東京を離れた。だけど、大きくなったら再び東京に行くんだ。そして、就職して幸せな家庭を築くんだ。 「我慢しようと。きっとここの素晴らしさがわかるから」  達也は考えた。本当にここの良さがわかるんだろうか? 雪深い田舎で、欲しいものがなかなか手に入らない。本当にここで生きていけるんだろうか?
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