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 そもそも、怪談なんて飲み会でのツマミみたいなもんだ。  成人式以来に会うとなればテンションも酒の量も上がる。俺たちの学年は地元を離れた連中が多かった。  俺もそのひとりで、仕事はGWも盆もないようなものだし、年末年始に帰ったところで甥や姪にお年玉をせびられたうえに飽きられるまで遊ばれ、子ども慣れしていない俺はうまくかわすこともできず付き合い続けた結果精魂尽きてしまう。そして夜、畳で大の字になりのびている俺に、姉貴が「だらしない。あたしは毎日そうなんだけど」と声をかけるまでがセットだ。  その上、最終兵器の母親に「前聞いた彼女とはどうなってるの?」なんて、何年前の話をしてるんだって面倒な事になるからここ数年は帰郷を避けているのが本音だ。  でも、今年は違った。  そろそろ帰って来いと、最後の砦である父親からお達しが来た。そして同じタイミングで、年末に奴らも地元に帰るとの連絡も入ったのだった。  地元のやつらが「街(まち)」と呼ぶ、駅周辺の繁華街。  それなりに繁盛している居酒屋に、俺を含めたあの頃の面子が4人揃っていた。話を聞くとまともに帰郷するのは俺と同じくらい久しぶりらしい。俺以外は全員既婚者とあって、この飲み会も羽を伸ばすのを兼ねているようだ。 「なあー、おまえも結婚しろよー」 「うぜぇ絡み方すんな。もう酔ってんのか」 「今日しか飲みの許しが出なかったんだよ……飲ませろ……」 「はあ? お前んとこの嫁厳しすぎじゃね?」  子供がいる奴もいるし、いない奴もいる。  嫁さんとうまくいってる奴もいるし、微妙な奴もいる。  俺は子どもが苦手だし結婚願望も今のところ全くない。まぁ彼女は欲しいけど。  みんなそんなもんだ。それなりに、自分なりに考えた先の幸せを掴んでいるはずだ。  いわゆるマウントの取り合いをプライベートな話題でするほど、俺たちはくだらない生き方はしていない。そのことに心底ホッとした。  学生時代の本当にどうでもいいような話から、仕事というか上司関係の愚痴。酒がすすめばえげつない下ネタだってガンガンに入る。笑い飛ばして、またそれぞれ日常に戻っていく。  場所も胃におさめているあれこれも違うけど、やっていることはあの頃と変わらない。だから、それも、その延長線上にあった。 「なあ。怖い話しようぜ」  言い出したのは誰だったか。全く思い出せない。
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