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私の父は昔ながらの頑固親父でも、恐ろしい雷親父でもないのだが、一人娘の私を心配するあまり、遅くまで翡翠と一緒にいることを懸念している。
父親曰く、『翡翠君も男だっ!!』とのこと。
そんなことは言われなくてもわかっているし、正直それを狙っているのだが、やはり十も歳の離れた女は女として見てもらえないのだろう。
毎週日曜日の夜に月見酒をしていても、日付を跨ぐ前には屋敷に帰されるのだから嫌になる。
「あー、俺もう眠くなってきたわ」
この流れは、彼がお開きを伝える毎回恒例の前置きだ。
これでも一応、母親譲りのはっきりとした顔立ちで、それなりに男受けは良いはずなのだが、どうやらこの人には効かないらしい。
「…私はまだ、…飲んでたいんだけど」
「そうかよ、程々にな」
にべもなく言って、翡翠は空瓶と盃を持って立ち上がる。
私を置いて、庭の中央に建てられた木の塀の扉を開けると、彼は家へと戻っていった。
悲しくも残された自分は、縁側に体を投げ出して大きなため息をひとつ、空へと放った。
「…何でなのよ」
想いが強くなればなるほどに、遠ざかっていくような気がして、そんな翡翠を繋ぎ止めるように可能な限り一週間に一度彼を月見酒に誘っている。
けれどこの関係を続けて何年も経つのに、まるで進展がないのだから、こちらの心はだいぶ折れかけているのだ。
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