田舎

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「ごちそうさまでした。おかず、いつも持ち帰りの分までありがとうございます。」 「うちも、お菓子ごっつぉになって、かえってどうもない。」 お義母さんはニコニコしている。 「…は、はい。では、また。ありがとうございました。おやすみなさい。」 車を発進するまで、そのそばで虫の声に包まれてご両親はずっと庭先に立っていた。 妻の実家を出たのは午後8時。 妻が死んでから妻との約束で週に1度、妻の実家にご飯を食べにいっている。 帰りは車で1時間かけて、妻と暮らした家を目指し運転する。 今際の際に、妻が「週に1回、いつでもいいから実家で晩御飯を食べて。」と言ったので、僕はそれを頑なに守っているのだけど、僕は今食べ物の味がほぼほぼわからないので、妻のこの言葉の意味がよくわからない。 妻が亡くなってもうすぐ1年。 台風の日の夜、妻は山の側に住む両親を心配し、車を走らせ、土砂災害に巻き込まれた。妻は見つかったが意識不明の重体。 僕は病院に詰めていた。 妻のベッドの横にいる僕の名前を口にしたのは事故から3日後のこと。喜んだのは、その一瞬で、妻は遺言とも言える言葉を残して、すぐに息を引き取った。 僕は、この1年、一瞬も妻を忘れていない。 「ていうか。ていうかさ!黙って食えよ!飯は!!ぐだぐだグダグダ!うるせんだよ!マジで!黙れ!はあ!?くだらない世間話ばっかしてんなよ!マジムカつくわ!飯にお前らの唾かかりまくってんだよ!きたねーな!」 僕はたまに怒りに任せて運転中に暴言を吐いていた。 『渉。』 ふと、誰かの声が聞こえた。 『渉って!』 この聞き覚えのある声… 赤信号で止まってふっと、助手席を見た。 『よ!』 そこには、笑って右手を挙げる 「待って!え!何?は?ええ?え!?」 『そんなおどろかないでよ。』 「は、はつ、葉摘(はつみ)!何してんの!?なんで?」 『何って、夫とドライブ?』 半透明の妻がいた。 『へへ。』
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