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鏡の中の他人
身体が重い……重過ぎる。もっと滑らかに動けたはずの全身が、不格好な金型にはめ込まれたみたいな、奇妙な鎧に押し込められたような、とてつもない不自由な感覚で強張っている。
ああ……どこだろう、ここは。
やけに眩しい。表面もピリピリと乾いて……かさついている。俺の知る空気ではない。圧倒的に湿度が足りないのだ。
視界の明るさに馴染み、周囲の様子が見えてくると、その異様さに思考が止まる。
どこなんだ、一体?
浅い凹凸の付いた平たい壁が一面に広がっている。板なのか、岩盤なのか、金属なのか……判別できない。王宮の外壁に使われている、あの硬い鉱物とも違うし、人間達の、あのヤワな棲み家の材質とも、どうやら違うみたいだ。
二度三度、頭を振る。振る……振る?
グラグラと視界が揺れた。
ちょっと待て、なんなんだ、この感覚は!
ヒヤリと全身が凍り付く。俺は、俺の身体は、どうなっているんだ?
多分、本能とかいうものがあるのなら、そうなのだろう。恐怖と焦燥感。突き動かされるように跳ね起きて――視界がグラリ、90度傾いた。
「人間……?」
正面の大きな滑らかな板の中で、こちらを凝視する黒髪の人間がいる。少年より大きく、大人よりやや若い……まだ肉が不味くなる前の食べ頃の青年だ。
「あら? 目が覚めたんですね」
不意に左から白い服装の女が現れた。女はツカツカと近づいてくると、細い手を伸ばしてきた。柔らかく、生温かい感触に思わずビクリと身を引いた。
「ま……ふふ、大丈夫ですよ」
正面の板の中にも彼女はいて、白い布に覆われた青年の腕に触れている。見えている光景と感覚が重なる。あれは……あの青年は、俺、なのか?
「あ……う、うわあああぁぁ!!」
「く、黒須さん?! どうしました? 落ち着いて……」
「ああああああぁ……っ!!」
嘘だ。嘘だ、嘘だ。俺が、人間になったなんて……!
「黒須さんっ、落ち着いて!」
「いっ、嫌だああああぁ!!」
叫び声を聞きつけて、白い服の人間が更に増え、喚き暴れる俺の細い手足を掴み、身体を白い布に押さえつけた。
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