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他には望まない
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
僕は、物心ついた時から彼女になりたかった。彼女の名前は、神崎しほり。そして、その隣にいるのが中山真之助。そして、二人を見つめる僕こと、相川修治。
「修ちゃん、どした?ぼんやりしちゃって」
しーちゃんが、そう言って僕の顔を覗き込んだ。
「ううん。朝から、熱いなーって思っただけ」
僕が嫌味ったらしく言った言葉に…。
「確かに、夏だもんな」
真之助は、そうやって答えた。
違うわ!馬鹿。
心の中で、僕は呟いていた。
「あっ、ごめん。しーちゃん、真之助。僕、佐々木に渡すもんあるから急ぐ」
「じゃあね」
「気を付けろよ」
僕は、二人をおいて走り出した。
僕と真之助は、家が隣同士で小さな頃から一緒に成長していった。そんな僕達の中を引き裂くように現れたのがしーちゃんだった。
二人が互いを異性と認識し恋に落ちたのは小学6年生の頃の話だった。
でも、僕は知っている。
二人は、物心ついた頃にはすでに互いに興味があったのを…。
あれから、三年が経った。
6年生から付き合い出した二人。
毎朝、毎朝、仲良く手を繋ぐ二人。
僕は、それを三年も見せられていた。
本当は、僕が真之助の隣に、ずっといるはずだったんだ。
そう思うとしーちゃん何か死ねばいいんだという気持ちが毎日、毎日湧き出てくる。
だけど僕は、その気持ちを打ち明けるつもりはない。
真之助の親友というポジションを失いたくない。
苦しくても、悲しくても、そうやって生きていくって決めたんだ。
「ごめんね、佐々木」
「おはよう」
僕は、同級生の佐々木の元にやってきていた。
「覚悟は、出来てるか?」
「うん」
佐々木は、僕と同じで男が好きだった。
そして、僕と同じで佐々木も幼馴染みで親友である、同じクラスの柏原保が好きだった。
「本当に、いなくなった世界を見れるの?」
「ああ」
僕は、佐々木にそう聞いていた。
佐々木も僕と同じだった。
佐々木の好きな柏原は、幼馴染みである遠藤夏実と付き合ったのだ。
それから、佐々木は遠藤さんの死を願っていた。
そんなある日、佐々木が知らないおじさんから死んで欲しい人がいるのならこれを使いなさいと言われて渡された目薬があると言い出した。
お互いに半信半疑で、なかなか使う事もなく一年が過ぎた。
だけど、僕と佐々木はもうすぐ中学を卒業してしまう。卒業後、僕達は別々の高校に行くから、この目薬を使う機会はないねって昨夜電話で話たのだ。
だったら、今日使おうって話しになった。
「相川、覚悟出来てる?」
「出来てる」
「じゃあ、始めるぞ」
「うん」
僕と佐々木は、そのピンク色の目薬をさした。
そして、目を瞑った。
空き教室、誰もいない場所、僕達はその机に顔を伏せる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「真之助、いつまで泣いてるの!前を向かないと…」
僕の目の前に泣きじゃくる真之助とそんな真之助を励ましている真之助のお母さんがいた。
「ごめんね、修ちゃん。もう、三ヶ月もこんな調子で」
そう言って、真之助のお母さんは僕に申し訳なさそうな顔をしていた。
「じゃあ、私は向こうにいるから。ゆっくりしてね、修ちゃん」
おばさんは、そう言って出ていった。
どうやら、ここは真之助の部屋みたいだ。
「真之助」
「しほりが死んでから、まだ三ヶ月。なのに、みんな前向け、前向けって…。そんなん無理。修治ならわかるよな?」
「う、うん」
僕は、そう言って真之助に嘘をついていた。
しほりが死んだ。
凄く嬉しい事ではないか!
「しほりー、しほり」
「真之助、僕がいるだろ?」
「はあ?修治が居て何になる」
真之助は、僕を睨み付ける。
「何になるって、言われても」
「修治はしほりの代わりになんてならない」
真之助は、ハッキリとそう僕に言った。
「わかった。じゃあ、僕。帰るよ」
立ち上がろうとする僕の手を真之助は、引っ張ってくる。
「一人にしないでくれよ。まだ、一緒に居てくれよ」
「でも、僕はしーちゃんの代わりにはなれないから」
「ならなくていいから…。修治は、親友だろ?一緒に居てくれ」
真之助は、そう言ってガタガタと震えながら泣いていた。
僕じゃ駄目?なんて言えるはずなかった。
しーちゃんが死んだ世界。
僕は、真之助の隣にいれるって思ってた。
しーちゃんの代わりになれると思っていた。
「佐々木……」
気づけば僕は、学校に来ていた。
「どうだった?」
「無理だった」
僕の言葉に、佐々木も「同じ」と悲しそうに笑っていた。
「死んだら変わると思ったんだけどさ…。何か逆に悪化した」
僕は、佐々木の言葉に頷いていた。
「大嫌いだけどさ!遠藤が繋いでくれてたのがわかった」
「僕もだよ」
僕と佐々木は、そう言いながら見つめ合っていた。
「相川を好きになれたら違ったかもな」
「僕もだよ、佐々木」
「無理なもんは仕方ないよな」
そう言って、佐々木は笑って僕を見つめる。
「いつ帰れるんだっけ?」
「それは、わからないんだよ」
「そっか…」
「楽しむしかないな!」
僕の肩を叩いて、佐々木は立ち上がった。僕も立ち上がって家に帰った。
いつ帰れるかわからないまま日々が過ぎていく。
僕は、気づくと大人になっていた。
「今日、休みだろ?修治」
「うん」
家にやって来た真之助は、朝からお酒を持ってきていた。
「朝から、酒飲むの?」
「ああ」
そう言って、ビールをごくごく飲み出した。
真之助は、自堕落な人間になっていた。僕は、こんな真之助を望んだのだろうか?
「修治。真面目に働いて偉いよな」
「そろそろ。働かないの?真之助」
「別に、両親が生きてるし…。必要ないよ」
「いつまで、生きてるかわからないだろ?」
「そしたら、国にお世話になるよ」
そう言って、真之助は笑っていた。
何か、冷めたな。
僕は、今日そう思った。
しーちゃんがいたから、真之助はかっこよかったのかな?
何か、今の真之助は、ダサい。
何か、望んでた未来と違う。
どうせなら、振られるか…。
それが、一番楽なんじゃないかな?
「あのさ、真之助」
「なに?」
「僕、真之助を好きだ。異性として好き。付き合いたい。キスしたい。その先にだって…」
「はあ?気持ち悪いな、修治」
僕は、真之助にそう言われた。
気持ち悪い……。そうだよね。
気持ち悪いよね。
「でも、付き合ってやってもいいぞ!金くれんなら」
そう言って、真之助は僕にちょうだいと手を差し出してくる。
「最低だよ!お前みたいなの最低だよ」
僕は、そう言って泣いていた。
「つうか、ずっと知ってたんだよな。しほりが死んで。僕がいるだろ?って言われてからさ…。利用しようって決めてたんだよ」
そう言って、真之助は嬉しそうに笑っていた。
利用……
なんだよ、それ……
僕の気持ちを……
「お前みたいなやつ、親友でも、幼馴染みでもないよ。大嫌いだ」
僕は、真之助に叫んでいた。
▽▽▼▽▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
ポタポタと何かが頬を濡らすのを感じて目を開けた。
「何だ、佐々木」
頬を濡らしたのは、佐々木の涙だった。
「戻ってきたのか?」
「ああ」
「何かあった?」
「保に、嫌いだって言っちゃった」
「奇遇だね!僕も…」
僕と佐々木は、顔を見合わした。
「だから、戻ってきたんだな」
「そうだな」
気づくと制服で、さっきの場所にいた。
「もう、遠藤に死んで欲しいって思わなくなったわ」
佐々木は、そう言って窓を開けた。
「それって、柏原。自堕落な生活してたのか?」
「うん。最後、ホームレスになるって言ってたわ」
佐々木は、そう言って笑ってる。
「僕も、最後は国にお世話になるとか言い出した。告白したら…」
僕は、さっきの出来事を佐々木に全て話した。
「一緒だよ!相川」
佐々木は、泣きながら僕を見つめていた。
「佐々木。僕と同じ高校に行かない?」
「えっ?今から?」
「そうしない?離れるのがいいんじゃない?」
「確かにな」
佐々木は、そう言って僕を見つめる。
「今から、でも受けれる所あるから受けるか!」
「ああ」
「相川、今日、ありがとな」
「ううん」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
僕と佐々木は、笑いながら教室に戻っていく。
僕は、しーちゃんに死んで欲しいとは思わなくなった。
そして、しーちゃんになりたいとも思わなくなった。
だって、しーちゃんがいなくなった後の真之助は…。
僕が、好きな真之助じゃなかったから…。
「じゃあ、また放課後な」
「うん」
僕は、佐々木と教室の前で別れて手を振った。
僕の一番の理解者は、佐々木だ。
これから先は、佐々木の隣で一緒に生きてくって決めたんだ。
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