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りん、と音が鳴った。
手の中の鈴をぎゅっと握る。
そうか。ずっと聞こえていた音はこれだったのか。
忘れていたわけではなかった。隠していたのだ、私は。奏太との思い出を。降り積もった「正義」という雪の中に。振り返らぬように、気付かぬように。奏太の願いと、自分の愚かさに。
「私は…」
一度は抗ったのだ。出口を求め暴れ狂う、自分の心に。だけど無理だった。聞いてしまったのだ。奏太が死んだ後、笑いながら話す彼女たちの言葉を。
『ラッキーだったよね。アイツ、自殺って事になってさ』
その時からだ。私の心に雪が降りだした。降り続く雪に全てを隠しながら、私は殺し、奪った。何も感じぬままに。
鈴が鳴る。
「分かってる、奏太」
復讐など、あなたは望んでいない。
あなたの願いは…
「「ねえ、笑って」」
2つの声に、私はぎこちなく口の端を上げる。
『それね、僕とお母さんなんだよ』
あの時、奏太が言ったその言葉の意味が、私には分からなかった。
だけど今は分かる。
小さなあなたをぎゅっと抱き、包み込む私の姿。この鈴が、息子にはそう見えたのだろう。
「奏太…」
守りたかった。あなたを、この手で。あなたの全てを包み、抱き締め、盾となって。
この世界の何ものからも。
「ごめん、守れなくて…」
なりたかった。
私は、本当に。
この鈴のように。
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