3人が本棚に入れています
本棚に追加
降り続く雪が、全てを白に染めている。
「メリークリスマス」
私が差し出した箱を、彼女は驚いた顔で見つめた。
「私に?」
彼女の手が、丁寧に包みをほどいていく。現れたのは深紅のマフラーだ。
「…すごい。これ、手編み?」
「そう。だけどごめんね。あんまり上手じゃなくて」
「ううん、すごく嬉しい…」
「どうしたの?」
ふいに瞳を潤ませた彼女に、私は尋ねる。
「ごめんなさい…。私、今までクリスマスプレゼントってもらった事がなくて。こんな風にケーキとかご馳走用意してもらうのも、生まれて初めてで…。ずっと一人だったから、私。クリスマスも、誕生日も…」
「そう」
私はそっと彼女の肩を抱く。
「辛かったわね」
そう言うと、彼女の細い肩が小刻みに震えた。小さな子にそうするように、私は彼女の背をさする。
やがて彼女はポツリと言った。
「どうして清花さんは、私にこんな風にしてくれるの?」
「え?」
「清花さんと私が出会ったのって、ちょうど1年前だよね。変な奴らに絡まれてた私を、清花さんが助けてくれた。それで、それからも私が困ってる時とか、寂しい時、いつも清花さんは私の傍にいてくれた。私、いつも不思議に思ってたんだ。どうしてこの人は私の求めているものが分かるんだろうって。まるで、本当のお母さんみたいに」
話しながら、彼女はそっと私から離れる。
「清花さん。…私ね、本当はこんな風に清花さんに優しくしてもらえるような人間じゃないんだ」
「どういう事?」
堪えていた何かを吐き出すように、彼女は言葉を続けた。
「イジメ、やってたんだ、私。友達と一緒に。5年前、13歳の時。酷い事したの。清花さんには言えないくらい。相手は近所の小学生の男の子」
私はただ黙って、彼女の告白を聞いた。
「今思えば、寂しくて、誰かに構ってほしくて、だけど誰も私のことなんて見てくれなくて、ムシャクシャしてやっちゃったんだと思う。あの子の事なんて考えずに」
マフラーを持つ彼女の手が、固く握られていく。
「どうして今まで平気で生きてこれたんだろう。謝りたい。私、あの子に。だけどもう出来ない。…死んじゃったんだ、その子。その日もね、クリスマスだったの」
大粒の涙が、彼女の頬を流れ落ちた。
「あの子は何も悪くないのに。悪いのは、私たち。私が死ねば良かったんだ。あの子じゃなくて、私が」
「そうね」
微笑みを浮かべ、私は頷いた。
「私も、そう思うわ」
彼女の耳元に口を寄せ、囁く。
『死になさい。あなたに、生きている価値はないわ』
凍り付いた表情で、彼女は私を見つめた。と、次の瞬間、その口から真っ赤な血が溢れ出す。混ざり合った涙と血が、滴り落ちていく。彼女の手の中の、赤いマフラーへと。
最初のコメントを投稿しよう!