3人が本棚に入れています
本棚に追加
深紅のマフラーを首に巻き、真っ白な世界を私は駅へと向かう。
スマホで位置情報を確認し、雇った役者たちに短いメッセージを送った。次の標的と出会うためだ。彼女に私を認識させ、時間をかけて私という存在を大きくしていく。そして、これまでと同様に、彼女が自分の罪と向き合い、罪悪感を抱いたその時、私は力を使う。「いじめる人間を殺す能力」を。
「いじめる人間」に私が「直接」「死ね」という。その条件を満たせば、私は相手を殺すことが出来る。ただし、この力は「いじめる人間」を「理不尽かつ一方的に相手を傷付けたという罪悪感を抱える人間」と定めている。しかし私が標的とする相手は、皆、「人を傷付けても平然と笑っていられる悪魔達」だ。だから私は、標的に近付き、彼女たちに溢れるほどの「愛」と「ぬくもり」を与える。彼女たちの心を解きほぐし、自らの罪に気付かせるために。悪魔であると同時に「心に何らかの欠陥を持った哀れな子供達」でもある彼女達は、私が与える餌に、驚くほど簡単に食らいつく。
「あと一人…」
白い息と共に、私は呟く。
5年前のいじめ事件の加害者は、4人の子供達だ。最後の1人を殺せば、全員始末できる。
駅前の広場には人が群がっていた。彼らの頭上に僅か覗くのはクリスマスツリーだろう。目を伏せ、私は改札へと向かう。聞き覚えのある音が、私の耳を掠め、消えていった。
電車を降り、目的地へと足を進める。
途中、遊具が3つあるだけの小さな公園の前を通った時だ。街灯の下、幼い少女がブランコに座っていた。4、5歳ほどだろうか。ボサボサの髪に、痩せこけた頬。夜目にも分かるほどに薄汚れたコートを身にまとっている。公園に、他に人の姿はない。
時計を見ると、19時を僅か過ぎたところだ。この歳の子が、雪の降るクリスマスイブの夜に好き好んでこんな場所にいるはずがない。家に入る事が出来ないのだろう。彼女の慣れた様子からすると、それが日常的に繰り返されている事だと分かる。
スクールカウンセラーという仕事上、彼女のような子供たちを私はこれまでに何人も見てきた。彼らを守るはずの大人たちがそれを放棄し、時には、まるで人間ではないかのように彼らを扱う。
降りしきる雪が勢いを増し、私はまた、歩き出す。
やはり、この世には、生きていてはいけない人間がいる。そういった人間を消し去る事こそ、正義だ。
最初のコメントを投稿しよう!