3人が本棚に入れています
本棚に追加
「清花さん、何でツリー飾らないの?」
屈託のない笑顔で、彼女は言った。
「忘れてたわ」
「ええっ、ありえない。クリスマスにツリー忘れるとか」
彼女は頬を膨らませる。
「ごめんね。来年は飾るから」
子供のように駄々をこねる彼女の髪を、私は優しく撫でる。
彼女との出会いから、1年。溢れるほどの「愛」と「ぬくもり」を、私はこの子に与えてきた。そして、「彼」の命日であるクリスマスイブに、死の間際、「彼」が身に着けていた赤いマフラーを贈る。おそらく彼女は覚えてはいないだろう。だけど、彼女の中に眠る記憶が思い出させるはずだ。自分が殺した「彼」のことを。たとえ僅かでも、自らの罪を悔いたその瞬間、彼女は私に殺される。「来年」が彼女に訪れることはないのだ。
「はい、これ」
私が差し出した箱を、彼女は驚いた顔で見つめた。
「メリークリスマス」
マフラーを巻き、私は彼女の家を出る。外は、視界を埋め尽くすほどの雪だ。
つい先ほどの彼女の言葉が耳にこびりついている。今はもうこの世にいない彼女が、涙と共に放った言葉だ。
『自殺じゃない。死んじゃったの、あの子。私たちがいじめている時に』
『清花さんさんなら分かってくれるよね。寂しかったの。どうしようもなかったの』
すごいわ。成長したのね、あなた。自分の罪に気付けるほどに。
だけどね、もうあの子は成長出来ないの。
今更泣いたって遅い。どれほど悔やんでも、死んだあの子は戻ってこない。あなた達の罪は永遠に消えない。この世から消えるべき人間なのだ、あなた達は。
「終わったよ、奏太…」
雪の舞い降りる天に、私は呟く。
奏太。
あいつらに殺された、私の息子。
あなたを殺した4人は、皆、この世から消え去った。
りん、と鈴の音が耳を掠めた。
最初のコメントを投稿しよう!