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駅へと私は向かう。
息子を殺した悪魔たちはこの世から消えた。だけどこの世界にはまだ、消えるべき人間がたくさんいる。
電車を降り、1年前と同じ公園で私は足を止めた。前回と同様に、少女がブランコに座っている。ざくざくと雪を踏みしめ、私は彼女の前に立つ。サイズの合わない服から覗く彼女の首元には、何かに撃たれたような、無数の赤い痣。
この1年、私はこの少女の事を調べた。そして結論を下した。彼女の母親は「生きていてはいけない人間」なのだと。少女は母親と、その交際相手から虐待を受けている。命を脅かすほどの。その事実に周囲の人間が気付いていないわけではない。にも関わらず少女が保護されていないのは、「愛」を盾に母親が逃げ続けているからだ。
「こんばんは」
私の声に、少女は驚いたように顔を上げた。
「お母さんは今、お家にいる?」
こくりと彼女は頷く。
「そう、ありがとう」
「もしかして、サンタさん?」
私の赤いマフラーを見て、彼女は目を輝かせる。
「…かもしれないわね」
私はにっこりと微笑む。
消してあげよう。この世界から、今すぐにでも。あなたを傷付ける人間を。
それが、私からあなたへのプレゼントだ。
少女は嬉しそうに笑う。
「すごい、女の人もサンタさんになれるんだね」
頷き、彼女の家である、すぐ隣の古びたアパートへと私は足を向ける。
「サンタさん、待って」
声と共に、少女は私に何かを握らせた。
「プレゼント。さっき、拾ったの」
彼女がくれた「プレゼント」に私は目を落とす。と、同時に息を呑んだ。
小さな鈴が、私の手の中で鈍い光を放っていた。
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